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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

障害者雇用率水増し問題に関する戦いの記録

 本記事では、障害者雇用率水増し問題に関して私が各所に働きかけた結果をまとめておこうと思う。何か世の中に異議申立てしたいという人の参考になれば嬉しい。

 はじめにこの問題についての私の主な主張を再度まとめておく。

 私は、官庁訪問を経験した障害者として、

  1. 水増し期間中に官庁訪問した全ての障害者に対し、再度官庁訪問の機会を与えるべき。
  2. 不足が明らかになった約3400人分の障害者を今後雇用する際、可能な限りプロパーの職員として政策立案に携わらせるべき
  3. 国家公務員採用において障害者枠を創設すべき

の3点を主張した。詳しくは下記エントリを参照頂きたい。

 

double-techou.hatenablog.com

  私にはコネも何も無いので、影響力のありそうなところに片っ端から自分の主張をメールで送った。その結果を下にまとめる。

①マスコミ

朝日新聞

 一番親切だった。すぐに電話取材があり、結果として8月28日の朝刊で匿名ではあるが長めに取り上げて頂くことになった。

www.asahi.com

 国家総合職試験に受かって官庁訪問した障害者が実際にいたということ、また障害者の政策立案への関与という論点を世の中に示せたことは、今後障害者の採用制度を検討する国への牽制という一定の意義があったと思う。この記事でTwitter検索を掛けると多くの人が反応しており、落ちぶれたと言われつつも新聞社の影響力はまだ大きいことを実感した。また、「この記事に出てくる国家公務員志望者です」という形で自己紹介すると各種団体の食いつきも格段に違ったので、名刺代わりになるという意味でもこの記事は良かった。

 朝日新聞は他にも、後述する弁護士の紹介など非常に良くしてくれた。

NHK

 一回簡単な電話取材を受けたが報道には至っていない。いつかこの問題で特集を組むと思うので一度正式に取材する機会があるだろうと言われている。

 芸が細かいと感心したのは2点。私の出身大学を見抜き、同じ大学出身の記者さんをぶつけてきたこと。こちらから電話を掛けると、必ず「電話代がかかってはいけないのでこちらから掛けますね」と言うこと。取材対象者の心証を良くするためにはこれぐらいのことは朝飯前なのだろう。

【追記】10/21(日)にNHKにて取材を受け、翌22(月)のニュース7、ニュースウォッチ9等で放送されました。

②障害者団体

日本盲人会連合

 私は視覚障害者ではないにも関わらず、声明文に私の主張を大幅に取り入れて下さった。

nichimou.org

 特に2,7番については私の主張が色濃く反映されている。6,8番についても私の考えと一致する。この声明文ができるまで、日本盲人会連合の関係者とは緊密に文案をやり取りし、本当に真摯に私の意見を聞いて下さった。

 また、野党合同ヒアリングが今後もある場合には私の主張も代弁すると仰って下さった。心から感謝したい。

日本障害者協議会

 厚生労働省が通報専用窓口(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01335.html参照)を設置したことを教えて頂くなど、良くしてもらった。ちなみに通報窓口には早速私の主張を送っておいた。

③政党

 野党5党にメールを送信した。共産党から赤旗の記事を紹介する事務的な返信が来た他は、一切無反応だった。個人で政党を動かすのは無理だということが分かった。居住する選挙区の議員個人と普段からコネを作っておいてそこに働きかけるという方が現実的だろう。私にはそんなコミュ力は無いが。

④弁護士

 本稿冒頭の1の主張の実現には訴訟も必要と考えたので、弁護士も探してみた。まず弁護士会の無料相談を使ってみたが、国に対して訴訟をする弁護士は少ないということで紹介してもらえなかった。やはり対国の訴訟は、勝ち目が薄い、大変な労力が掛かる、といった理由から旨味が少なく、誰も受任したがらない傾向にあるらしい。法テラスは資力要件で利用できなかった。自分で法律事務所に電話しまくったりもしたが殆ど相手にされなかった。

 結局、朝日新聞の記者から紹介してもらった弁護士に法律相談(1時間1万円、税別)を依頼した。言われた内容としては、やるとすれば実名を出して記者会見し、同じ境遇の人々を集めて集団訴訟をする流れになるだろうということだった。勝訴の見込みは薄いが社会的意義はあるとのことだった。

感想

 私のようにコネもコミュ力も無い一障害者でも、手当たり次第にコンタクトを取れば大きなアクターを動かせることもあるということは大きな発見だった。また、今回はメールと電話のみを武器として活動し、こうした昔ながらのやり方がかえって効果的な場合もあるということが分かった。SNS以外にも世の中に物申す方法はあるので、参考にしてほしい。

 ただ、これらの活動を個人でするのは予想外に時間を取られる。ここ数週間は本当に忙しく、仕事との両立のために寝食の時間も削ることになった。活動団体や専業の活動家というものの存在意義が少し分かった気がした。

今後の展望

  • もし訴訟をするのであれば、実名を出し、現在の職や社会的地位、平穏な生活を全て捨てて訴訟にコミットする覚悟が必要になる。加えて最低でも数十万の裁判費用も必要になる。全てを賭けて国と対決するか、一生FAKE野郎で終わるかという究極の選択を迫られている。しかも世間はどんどんこの問題を忘れていくので、やるとしたら今でないと社会的意味がない。胃が痛い。
  • それより穏健な方法として、人事院や厚生労働省に私の主張を送り、その回答を公開して世論を喚起するという方法が考えられる。