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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

障害者雇用率の水増し問題についての主張

 中央省庁での障害者雇用率の水増しが明らかになった。実は私は就活時には官僚を目指していて、国家総合職試験、国家一般職試験ともに合格し官庁訪問まで行ったものの、そこで全落ちの憂き目に遭ったのだ。当時の私は、「障害者が国の政策立案の中枢に携われるようにならなければ真の意味での社会進出は進まない」という思いで必死に官庁訪問をやっていた。私個人がこれから官僚を再び目指したいか、その適性があるかは別にして、今もその思いは変わっていない。そういうわけで居ても立っても居られず、ここ3週間程、寝食を削ってありとあらゆる障害者団体、マスコミ、法律事務所、政党と連絡を取りまくった。その顛末については稿を改めるとして、本記事では私が各所に伝えた主張の要旨をまとめておく。

 

  • 当時は悔しい気持ちはあったが、自身の能力が原因であり障害者に対する差別ではないと信じて自分を納得させた。
  • しかし、法定雇用率の水増しが事実であれば、違法な状態で競争させられていたことになり、採用プロセスの正当性にも疑問が生じる。同じ能力の障害者でも、採用側に法定雇用率を遵守する意図がある場合と無い場合では、採否が違ってくることは十分に考えられるからだ。
  • 国に対して主張したいことは二種類に大別できる。

①国家公務員試験受験者個人として

  • 官庁訪問の権利期間(3年)が既に経過した人も含め、法定雇用率水増し期間中に官庁訪問した全ての障害者に対し、再度官庁訪問の機会を与えるべきである。

②障害者の社会進出、政策立案への関与という観点から

  • 現在、不足している障害者は何人で、その人数分のうち総合職、一般職、非正規職員を今後それぞれ何人雇用しますというように、言い逃れ不可能な詳細な採用計画を示すべき。その計画に対してどのような結果であったかを各省庁が明示すべき。
  • 今後国は3000人超の障害者を雇用する必要があるが、法定雇用率さえ充足していれば良いということでは決してない。万が一、3000人の障害者に対して周辺業務、軽作業のみを与え、政策立案に関わらせることがないとすれば、平等な取り扱いとは全く言えない。3000人のうち、可能な限り(少なくとも健常者の中における比率と同等以上に)総合職、一般職といったプロパーの職員として採用する比率を高め、政策立案過程に携わる必要がある。
  • 現在、国家公務員試験には障害者枠がないが、現行の制度で法定雇用率を全く達成できていないことが明るみに出た以上、地方自治体のように障害者枠を設けるなどの制度改革が必要である。

 

 上記の主張に対して色々と批判はあると思う。障害者の社会進出とは働くことだけなのか。働いている人はそうでない人より偉いのか。仮にそうだとしても、他にも色々なマイノリティがいる中で障害者のみにアファーマティブアクションを行うことは正当化されうるのか。そもそも障害者雇用率という制度がおかしいのではないか。また、周辺業務や軽作業は政策立案より価値が無い仕事なのか。そもそもお前が落ちたのはお前の無能力ゆえであって、差別があったなどと立証することは不可能ではないか。

 これらは全て部分的に正しい。ただ、一つ指摘しておきたいのは、それでも国は障害者雇用率の設定と労働による障害者の社会進出、共生社会という道を選択し、それを法制度化してきたということである。一度建前を掲げたのならば、それを公正に貫徹することを求められるのは当たり前ではないだろうか。私の主張は究極的にはその一点に尽きる。