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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

自伝③天狗編(高校前半)

前回(下記記事)からの続きである。

 

double-techou.hatenablog.com

  高校時代はとにかく楽しかった。人生のピークと言える。

 エレベーターの設備があり、なおかつある程度の進学校ということで探した結果、通学に長時間掛かることになってしまった。ド田舎だから仕方がない。私は中学の登校日数がかなり少なく、障害もあったので、入学を認めてもらえたことは非常に幸運であった。

 進学校に来て良かったことは、二つある。

 一つ目はいじめや校内暴力、学級崩壊などがないことである。皆勉強が忙しいからそんなことをやる暇がないのだ。またそれを抜きにしても、本当に優しい人が多かった。おかげでグループに入れてもらったり、友人ができたりといったことも経験した。その友人のうち三人とは今でも交流が続いている。彼らの話はまた別の機会に譲りたい。

 二つ目は、勉強ができることが大きなステータスとなる環境だったことである。良くも悪くも受験至上主義的な価値観の中で、クラス分けも成績順に行われた。社会に出れば真っ先に排斥されるような人間でも、障害者でも、勉強さえできれば尊敬を集めることができるので大変居心地が良かった。

 ただそのせいで私はまんまと天狗になり、偏差値によって人間を序列化する構造に疑問を持つどころか、自分より偏差値の低い人間や勉強しようとしない人間を内心劣った人間として見下すようになった。これは後から考えると大変な誤りであった。私は基本的に「弱者」の立場から物を見ることが多いが、いざ自分が権力構造から利益を受ける側になった途端、批判的精神は消え去り、嬉々として構造に加担してしまうことが分かった。

 高校時代は、読書感想文で二つ賞を取った。

 一つ目のほうは課題図書が指定されるタイプだったが、指定された本にさっぱり興味を持てず苦労した。仕方がないので自身の身体障害に絡めて適当に書いたら県最優秀賞になった。こう書くとイキりに見えるかもしれないが、何も私が凄いと言いたいのではない。実は、障害者は作文や読書感想文のコンクールにおいて圧倒的に有利なのだ。まず、自身が何らかの体験なり読書なりを通して成長するという基本構造を守ること。そこに障害という要素をさりげなく絡ませること。この二点さえ押さえれば、たとえ内容がスカスカでも県最優秀賞くらいは簡単に取れる。もし障害を持つ学生がこれを読んでいたら、是非やってみて欲しい。構造をハックするというのは実に気持ちが良い。詳しくは下記エントリをご参照頂きたい。

double-techou.hatenablog.com

 さて、そうこうするうちに、でかいホールでこの感想文を音読することになってしまった。歯の浮くような内容を音読するのは相当恥ずかしかった。終了後、聴衆の見知らぬおばさんから涙ながらに「感動しました、頑張ってください」と言われた。私の意図がどうであれ、聴いた人が感動したのならそれはそれで良かったなと思った。言葉というのはそういうものだ。

 二つ目のほうは、好きな本の感想を書いて良いタイプのコンクールだったので、私の大好きなライトノベルを選んだ。読書感想文コンクールにおいてライトノベルを選ぶことは自殺行為に等しい。それでも、絶対に思い入れのあるこの本で書きたかった。また、この時は文中で自分の障害を示唆するようなズルは一切しなかった。だから賞がもらえたときは、今までの受賞で一番嬉しかった。この時は最優秀賞でもなかったし、そもそも大きな規模のコンクールでもなかったが、自分の書きたいものを書いて評価されたことが嬉しかった。私の人生の中で唯一自らの意志で成し遂げたことと言っても良いと思う。

(つづく)