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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

身体障害者あるある①「暴走運転」②落ち物拾いのジレンマ

 いきなりタイトルと矛盾したことを書くが、身体障害と一口に言ってもその状態や程度は人それぞれなので、本来は身体障害者あるあるなどというものは書けない。従って、「脳性麻痺の車椅子ユーザー」というカテゴリに絞ったあるあるを書こうと思う。もしそのカテゴリでない障害者の方も共感できる部分があれば嬉しい。

①普通に電動車椅子を運転しているのに健常者から「暴走運転」とからかわれる。

 電動車椅子には5段階の速度調整機能があるが、普通に社会生活を送っていて最大速度5以外で走るということはあり得ない。施設で暮らすならともかく、そんなことを職場や学校でやっていたら、健常者のスピードに付いていけない。ただでさえ我々は作業スピードが遅いのだから、移動の時ぐらい時間を稼がないと社会生活から脱落してしまう。また、車椅子は小回りが利かず、例え速度5にしていても回転したり後ろに下がったりするのに時間がかかる。こうした細かい動作は特にコミュニケーションの場において非常に重要な意味を持つ。この時に速度を3や4にしていたら操作性が悪すぎてとてもじゃないが会話などやっていられない。

 念の為言うが、速度5で前に直線移動したとしても、せいぜい健常者の早歩きと普通歩きの間ぐらいの速度でしかない。しかもコントローラーの方で動きを調節しているから最大速度が出ている時の方が少ない。それでも暴走に感じられるとしたら、以下のような理由が考えられる。一つ目は、健常者にとっては車椅子は目線より下になるため、急に下から出てきたように感じられること。二つ目は、歩行者と違って体の動きから次に動く方向の想像が付かないこと。三つ目は、障害者が歩行者より早いスピードで動いていることへの単純な違和感である。いずれにせよ、普通に動いているだけで「暴走運転」と言われるのは、たとえジョークだとしてもあまり良い気持ちはしない。

②物を落とす度に激しく葛藤

 健常者と違い、車椅子から床に落ちたペンなどを拾うのは容易ではない。私の場合上肢にも麻痺があるのでなおさらである。かと言って、そう簡単に「取って下さい」と人に頼めない事情がある。私のように頻繁に物を落とす人間が、自分で取ろうとする努力も見せずにその度に人に拾わせていたら、鬱陶しい、もっと言えば尊大だと思われる可能性がある。従ってまずは自分で取ろうとしなければならない。この時の拾う姿勢が自分で非常に醜く感じられて早くも嫌になる。この段階で健常者が気付いて取ってくれる場合もある。ただ、それが望ましいわけではない。「落としたなら何故言ってくれないのか、もっと頼ってくれないのか」と怒られる場合があるからだ。そうした事態は避けたいので、とにかく急いで拾おうとする。麻痺のある手が緊張で余計に震える。人差し指と中指で輪っかを作り、それをペンの下に入れようとする。だが無情にもペンは手からすり抜け、車椅子の前輪と後輪の間に入ってしまう。車椅子の位置を変える。手を伸ばす。また失敗する。私はすっかり嫌になり、「最初から落としたことに気付かなかったことにしよう」と考え、放置してしまう。離席して戻ってみると大抵誰かが拾ってくれている。ただ、この方法も多用しすぎると「明らかに物が落ちたことに気付いているはずなのに頼みもしないで取ってもらおうとする屑」と認定されかねない。どうやっても悩みは尽きない。