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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

重度障害者の民間就活事情

 本題に入る前に、先に私のスペックを書いておきます。私は脳性麻痺で身体1級の重度障害者です。脳性麻痺のため、歩くことも、支え無しで立つこともできません。常に電動車いすで移動します。上半身にも麻痺があるため、背筋は湾曲し、右手も自由になりません。就活時は関西の大学の文系学部に在籍していました。

 このような私が、民間企業の就職活動をしてみた感想を以下に書きたいと思います。なお、公務員試験については別の機会に譲ります。

・健常者枠(一般枠)では相手にもされない。

 初めの数社は健常者枠にも普通に応募したり、インターンや説明会などにも参加したのですが、これは全くの無駄でした。露骨に嫌な顔をされたり、無視されたり、そこまでいかなくてもそれとなく辞退を勧めてくるのが常でした。これは考えてみれば当たり前で、企業としては健常者枠で障害者を雇う理由が全く無いですし、雇うつもりのない人間に一秒でも時間を割きたくないというのが本音でしょう。こちらも時間の無駄だと判断してすぐに障害者枠に切り替えました。

・障害者枠であっても重度障害者はお呼びではない。

 障害者雇用率が年々引き上げられていることもあり、障害者枠なら引っ張りだこだろうと思われるかもしれませんが、全くそんなことはありません。企業が一番欲しいのは「見た目も普通で全く変わりなく働けるが雇用率には算定できる軽度の内部障害者」です。こういう人は確かに引っ張りだこでしょう。重度障害者は厳しいです。特に私のように車椅子から立つこともできず、見るからに不格好な脳性麻痺者は全く需要がありません。仕事中の介助が必要ない私ですらその有様ですから、より障害が重く自力で排泄できない友人は障害者枠でも相手にもされていませんでした。ちなみに彼も四大卒です。

・障害者はマジで理系に行っといた方がいい。

 上述のように、障害者枠であっても、よっぽど突出した専門技能が無いと重度障害者はまず一般就労できないと思ってください。ではその突出した専門技能を身に付けるにはどうしたらいいかと考えれば、絶対に理系に行っておいたほうがいいです。私は文系なので就活時にだいぶ後悔しましたが後の祭りです。健常者の就活の有利さが理系70:文系30くらいだとしたら、重度障害者の就活だと理系99:文系1ぐらいだと思って下さい。これは誇張でもなんでもなく、文系の仕事の大部分は「普通の人ができることをそつなく素早くやること」であることを考えれば自明と言えます。これを見ている重度障害者の高校生がいて、企業への就職を第一に考える価値観の持ち主なら、絶対に理系に行って下さい。

・発達障害の検査を就活前に必ず受けること。

 私は就職してから発達障害が明らかになり、地獄を味わいました。発達障害は、オープンにして就活すれば大変な不利になり、隠して入れば入社後に塗炭の苦しみを味わうという、大変な障害です。もし事前に発達障害が分かっていれば、重度脳性麻痺に加えて発達障害もあるということになりますから、最初から就活自体をしないという選択肢も取れたと後悔しています。特に重度身体障害者は、コミュニケーションや日常生活に不具合があっても身体障害に起因していると考えてしまうため、私のように発達障害の発見は遅れがちです。発達障害の診断が下りれば、それは己の特性を把握できるということですから、色々と身の振りようも出てきます。ですから必ず就活前に発達の検査は受けたほうが良いと思います。

 

 私はWebSanaやクローバーナビといった合同説明会型のサイトの他に、就職エージェントと個別に面談しながら活動していくタイプの障害者就活サービスもいくつか利用していました。そこでエージェントから言われた名言(迷言?)を下に挙げます。

・あなたは特に重度に見えるので覚悟して下さい。
・営業に障害者が行ったらアカンでしょ。
・便を漏らした時のことを考えておいて下さい。

 こういうことを言われながらでもやってやるぞという重度障害者の方は、一般企業への就活を是非頑張って下さい。そうでない方は、公務員、特例子会社、就労継続支援事業所等を狙うか、あるいは障害年金で生活しつつ労働以外に生きがいを見出すか、とにかく別な方法を考えて下さい。私は障害者枠で公務員になって今に至ります。就活は二度としたくありません。