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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

障害関係の良記事まとめ(The New York Times)

 ニューヨークタイムズの障害者に関係する記事の中で特に優れていると感じたものをご紹介します。

 各記事は本稿のリンクからどなたでも読めるようにほぼ常に保っておきます*1

《《記事①》》

【要約】筆者は聴覚障害者。過去約10年にわたり、周囲の無数の人がきまって思い付きで「あなたのために手話を学びたい」と安請け合いしてきた。しかしその約束を果たした人は誰もいなかった。その度に失望と諦念が心に刻まれた。端から守る気の薄い約束はしないでほしい。

【感想】「できない約束はするな」という言葉もあるが、実際私たちは気軽に作品をお勧めし合い「見る」と約束して見なかったりする。それでも互いにさほど気にはしない。

 しかし手話というのは筆者にとって言葉でもあり、アイデンティティの奥深くにある重要なものでもある。他方で相手は手話を単にカルチャーセンターの習い事の一つのような軽い感覚で捉えてしまっているのだろう。相互の認識のズレが当事者を深く傷つけることになる。

 手話を学ぶというのは簡単なことではなかろうし、他の形でも良好な関係を築くことは可能だと思う。それこそが誠実な関わりというものだろう。私も障害当事者だがメサイアコンプレックス気質の人はあまり信用しないことにしている。

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《《記事②》》

【要約】筆者は義足の女性。デートアプリ内でそのことを明かすか否か、あるいはどのように示すのか、といったことで常に悩んできた。

 明かさなければその分、実際に会うところまで行く確率は高まる。だが気まずい空気や不快な邂逅も無数に発生する。しかしたとえそうだとしても「わざわざ義足について自分から言及や説明はしない」というポリシーに至った。その理由は主に2つ。

 1つ目は「男性を快適にするために私の側だけがそこまで気を揉む筋合いは無い」という気持ち。2つ目は、仮に互いにとって不快な一回きりの食事になったとしても、異質な他者が出会い話すことの社会的意義をどこかで信じていて、ある種の啓蒙・社会貢献への使命感のようなものがあるから。私はそう解釈した。

【感想】先進的なアメリカで、様々な仕事や活動に従事していて、かつデートアプリを使うくらい積極的な障害者でさえ、やはり恋愛において身体的特徴から様々な影響を受けていることが分かった。だから私は「恋愛において身体障害なんか関係ないんだ」という言説は抑圧的な嘘だと思う。拒否する。

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《《記事③》》

【要約】筆者は福祉水準の高いニューヨーク在住の身体障害者。彼はテキサス州に行く動機があるものの、当地は到底筆者が生きられる福祉水準ではない。これでは実質居住の自由が無い。

【感想】私も福祉サービスや公的住宅は全て今の居住地に紐付いているため、もし転居となると大変さは想像もできない。そして日本国内にも大きな地域差がある。例えば北陸や四国の介護サービス支給量は少なく、私の障害程度で一人暮らしを行うのは相当難しいだろう。この記事の筆者も私も、まるで都会のコンクリートの隙間に根を張る雑草のように、どこにも動くことはできない。そういう諦めがある。

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《《記事④》》

【感想】代替テキストについて深く掘り下げた良記事。何より洒落ていて遊び心に満ちている。おそらく New York Times には物書きだけではなく、優れたデザイナーも沢山いるのだと思う。例えるならオモコロと朝日新聞のいいとこどりのような感じか。言葉だけに頼っていてはこういう記事は書けない。

 私の記事も含め、Webマガジンには「とりあえず写真の枠が余ったらゲッティーイメージのストックでも使っとけ」みたいな風潮がある。言い訳になるが、ライターの私が口を出せる領域ではなかったので仕方ない面もある。ただ本当はそれではダメだと思う。

 限られたスペースの中で本当に何かを伝えようとするならば、言葉であれ別の手段であれ、紙面・画面の隅から隅まで意図を持って最大限工夫すべきだ。

 私もこの記事のようなことがやりたかった。悔しいがやはり凄いと思う。

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《《記事⑤》》

【感想】映画『CODA』については、いつか本格的に取り上げたい、早く言及したい、と数ヶ月間思い続けています。私の評価は概ね肯定的です。というか大半の評論家は好意的です。しかしその中で敢えてこうした挑戦的な記事、しかもきちんと根拠のある批判を書く辺り、流石は当事者の記者さんだけあるなと感じ入りました。

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《《記事⑥》》How to Report With Care on Disability

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【この記事の関連エントリ】

double-techou.hatenablog.com

*1:具体的に言えば、本稿に記載のリンクを14日毎に新しいURLに更新し続けます。もしリンクが一時的に無効になっていたらその時は私の不注意です、すみません。ただその場合でも、私のアカウントからのこの特典とは別に、ニューヨーク・タイムズ非購読者も月10本は記事が無料で読めるはずです。間違ってたらごめんなさい。