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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

比喩表現とその活用

比喩表現の性質

 『響け! ユーフォニアム』に登場する吹奏楽器を男根のメタファー(隠喩)とみなす意見*1と、それに対する猛反発が過去にあった。そうした経緯から、「○○は△△のメタファーだ」という言説に警戒する向きが強いのは無理もない。

 ただし、自分なりにメタファーを見つけること自体は決して悪ではない。二つの物事の間にある隠れた類似点を見出し、それ以外の側面を捨象するという行為は、色々なことに応用できる。

 また、メタファーを公に指摘することについて言えば、それは隠喩を明るみに引きずり出し、明示的な比喩に変換して、社会に共有することを意味する。

 「ひも理論」といった難解な例を出すまでもなく、誰しも新しい物事を学ぶ時には多かれ少なかれ喩えを使って理解するはずだ。つまり誰かが考えてくれた比喩表現の恩恵に与っていることになる。

 物事を比喩で捉える事には「理解が楽になる」というメリットがある一方で、当然デメリットもある。必要な情報が捨象されてこぼれ落ちたり、逆に不必要なニュアンスが付加されたりすることだ。メリットとデメリットの差し引きで、比喩表現の優劣が決まる。「男根のメタファー」はそれがマイナスだったために、大半の人に「妥当性が無い」と見なされたのだろう。

 メリットもデメリットも両方小さければ、精度を重視した慎重な比喩になる。メリットもデメリットも両方大きければ、大意を掴むための「噛み砕いた表現」になる。そのぶん副作用も大きく、特に政治家にとって不用意な比喩表現は致命傷にすらなり得る*2

比喩表現のガワとそれに応じた活用法

 比喩表現は、喩えるものやその根拠といった中身だけでなく、そのガワ(見た目、表面の装い)も極めて重要だ。

 少し話が逸れるが、私には「『自己肯定感』という概念を、身の回りのありとあらゆる物体(鉛筆、ボール、etc...)に喩えることができる」という最悪の特技がある。何故「自己肯定感は鉛筆のようなものだ」と言えるのかは、皆様に考えていただくとしよう。私が思いつくだけでも何通りもの答えがある。

 謎掛けの答えより面白いのは、「自己肯定感は鉛筆のようなものだ」という比喩表現を思い付いた時に、それをどう使うか、ということだ。「鉛筆を見る度に自己肯定感のメタファーに思えて辛い」という風にすれば、病みツイートになる。「自己肯定感は人間の鉛筆だ」と筆書すれば、居酒屋の張り紙になる。同じ思いつきであっても、ほんの少し加工の仕方が違うだけで、流通する文脈や文化圏が180度変わるのだ。裏を返せば、居酒屋であれツイッターであれ、パリピであれオタクであれ、どんな文脈や文化圏にも、例え話が好きな人は相当な割合で存在していると思う。

比喩表現の会話における応用事例

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公式サイトで配布されている三宅日向のヘッダー画像

 また、『宇宙よりも遠い場所』の三宅日向のように、格言に変換して会話の中で使うこともできる*3

 このアニメに興味がある方は、後ほど末尾のツイートや公式サイト*4を参照して欲しい。ただし今は「三宅日向は南極を目指す女子高生4人のうちの1人で、即席のマイ格言を多用するキャラだ」ということさえ頭に入れておけばよい。彼女だったら、おそらくこんなふうに使うだろう。

f:id:double-techou:20200920171149p:plain「自己肯定感とは鉛筆のようなものである!!」

  三宅日向

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 誰名言?

 

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 わたしぃ〜

 ネタバレになるが、三宅日向のこの独特のコミュニケーション技法は、いじめなどの苦い経験から苦心して編み出されたものだと考えられる(つづく)。

次回:比喩表現が会話に与える影響 ~三宅日向のパラフレーズから考える~

<<以前本作を紹介したツイート>>

※2020年9月22日現在、prime video で全話無料となっている。

*1:ただし「男根のメタファー」という言葉がそのまま使われていたわけではない。

*2:「女性は産む機械」発言の柳沢厚労相、安倍首相が厳重注意 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

*3:この会話は三宅日向の喋り方を理解して頂くために想像で例示したものであり、本編中にはない。 念のため。

*4:TVアニメ「宇宙よりも遠い場所」公式サイト 本稿の画像は公式サイトから引用した。