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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

自民党議員の下でのインターンシップの思い出

 一時期政治家を目指していたこともあり、大学在学時に二カ月ほどとある若手政治家(以下A先生)のインターンシップに参加した。全く知らない世界で色々と面白かったのでその時の体験を書いていきたい。

A先生の人物像

  • 自民党所属の若手都道府県議会議員。イケメン、イケボ。演説では舞台俳優のような貫禄がある。
  • 家族に政治家はおらず、正義の味方になりたいという理由で中学の時から政治家を志したマジモンの人。
  • 高齢世代から若者・子ども世代への社会保障の再分配を主張。いわゆる財政再建派。
  • とても良い人で、私の車椅子をいつも事務所まで担いでくれた。
  • 誰に対しても温厚に接し笑顔で話を聞くが、相手が帰った瞬間に「話が長え」と吐き捨てる二面性も持つ。それくらい切り替えが早くないと政治家にはなれないということだろう。
  • 高邁な理想を持ち、利他心と自己犠牲精神に溢れた好人物。ただ、私が「アニメが好きです」と言ったら「声優抱きてえとか思わないの?」とすかさず聞いて来たので、性欲は別なのかもしれない。少なくともアニメについて分かり合えることは一生無いだろうと思った。

インターンシップの内容

  • 事務所に入ると真正面にでっかい日の丸がドーンと鎮座していて圧倒される。インターン生はこの前でガッツポーズをして記念写真を撮る(私はどちらかといえば左寄りだが)。
  • 『人間力養成のための「四綱領」原大本徹(原点、大局、本氣、徹底)』というのを何回も書かされる。ここら辺は非常に保守政治家っぽい。これをインターン生同士で添削し合う。
  • 政治家になりたいと言ったら出馬動機やマニフェストを添削して下さった。
  • 都道府県庁職員からA先生への個別レクに同席。議員はここで職員に色々聞きながら議会での質問内容を練るわけである。
  • 地元自治会からA先生の出身大学への陳情に同席。自らのパイプを活かして地元住民と様々な団体との協議の場をセッティングするのも議員の仕事である。
  • 事務所でA先生の選挙区の市の幹部と意見交換。色々質問させてもらう。
  • 街宣車に乗せてもらう。学校、病院、救急車の前では絶対やらないという暗黙のルールがあるらしい。また、選挙期間外の街宣には細かい規則があり、「〇〇(候補者名)と共に歩む自民党をよろしく」は党勢拡大活動なのでOKだが、「〇〇をよろしく」「Aをよろしく」は事前運動と見なされアウト
  • 都道府県議会、市議会の本会議、委員会を見学して感想文を提出。
  • 駅でA先生の名前を連呼しながらビラを配る。いわゆる「駅立ち」である。
  • インターン期間より前だが、A先生の演説会に聴衆として参加した。A先生本人が喋るまでに応援演説が一時間も続く。その間もA先生は笑顔と頷きを絶やさず、応援演説者がしょうもないギャグを言う度に過剰なほど爆笑する。一分の隙も無い、本物の役者だと思った。

先生の言動で面白かったこと

政治家の日常
  • 日頃の昼食も政治活動の一環である。A先生は選挙期間外でも必ず「選挙区内の、チェーン店ではない、老夫婦で長年やっているような店」で昼食を取り、必ず名刺交換をするようにしていた。何故そのような店を選ぶかと言えば、そこで働いている人は地元民(つまり選挙区内の有権者)である確率が高いからである。ちなみにそういう店は得てしてあまり美味しくなかったが、選挙に受かるためには仕方がないのだろう。
  • 議員の休日はお祭り、後援会の慰問旅行、ゴルフ会等で潰れるため無いに等しい。実にハードな仕事である。
  • 「道路がたびたび浸水する」といった住民の陳情に対しては、どうせ何もできないけれども、すぐに現地に行ってその場で市職員に電話を掛けてみせるとか、そういうパフォーマンスが大事。
政治家になるには
  • 私が市役所の公務員に内定していることを伝え、市職員としての経験が市議会議員になる際に活かせないかと尋ねると「市議会議員選挙では市政知識とか重視されない。市職員より弁当屋のおっちゃんの方が断然有利」とバッサリ。理由は顔の広さの差。
  • 政治家になるのに必要な要素は何ですか?→顔の造形>金>若さ>>>>>>>>>>>>>>熱意、政策
  • 市議会議員選挙でも100万円程度の自腹は覚悟しよう(もちろんお金は多い程良い)
  • 議員秘書は人手不足だからすぐなれる。
  • 議員を目指すなら肩書は多いほうが良い。NPOの肩書には簡単に手に入るものもある。プロフィールに書けるものは何でも手に入れろ。
  • 選挙とは基本的に多くの人が乗れる最大公約数的な人材が勝つゲーム。障害者はその点で圧倒的に不利。
  • まず当選最低得票数×3の有権者の名簿を手に入れないと当選の見込みは無い。この時あらゆるコネが必要になる。
自民党の党内事情
  • 市議会議員選挙は大選挙区制であるから、政策的に近いはずの自民党市議が最も支持層が被る敵になる。このため、自民党内の嫉妬、足の引っ張り合いが凄い。
  • A先生の選挙区の自民党では、初出馬の人は実力を見極めるためにまず無所属で立候補させられる。自民党の看板無しで受かってみろということである。そこで受かれば戦力になると判断するし、仮に落ちても自民党の看板に傷が付かない。また、上述のような自民党内の足の引っ張り合いを少なくする意味もあるだろう。
高齢者との関係
  • 高齢世代から若者・子ども世代への社会保障の再分配という、明らかに選挙に不利な政策を何故掲げるのか?→「自分が政治をする時、そもそも高齢者の顔なんか浮かんでない。子供たちのために政治をやっている。国民全てのための政治をしようなどとはちっとも思ってない。」
  • とはいえ、演説会に来る層などは殆ど高齢者。どう訴えかけるのか?→「皆さんの地方から若者が流出した結果どうなりましたか?スーパーもなくなって生活が壊れたでしょ?皆さんに直接関係なくても子育て支援が必要ですよ!」という具合に持って行く。「私は若輩者ですから皆様(高齢者)のお知恵と経験をお貸し下さい!」と自尊心をくすぐることも忘れない。

インターンを終えての感想 

  • 政治家になることは諦めた。一つ目の理由としては、私のように車椅子では、家々や現場を回る、チラシを配る、飲み会で酒を注いで回る、そういった一つ一つのことで大きく不利になると分かったから。二つ目の理由としては、自分に人々を救いたいという利他性は無く、自己顕示欲や怨念だけで通用する世界ではないと分かったから。政治のために全てを投げ打つA先生を見て、自分はとてもここまでできないと思った。
  • その後私は地方公務員になったのだが、役所にとって地方議員というのはとかく無理難題を言ってくる厄介な存在と見なされる。しかしインターンを経験したことで、この議員は何を背負って、何のためにこの質問・主張をしているのか?ということを常に考えるようになった。これは大きな財産だと思う。