一昨日(6月18日)は京都帝国大学の創立記念日だったそうで、めでたいことです。京大と言えば障害学の一大中心地ですよね。彼らの知的営為にはいつもお世話になっているので、マジリスペクトしています。友人にも何人か在校生やOBが居ます。
そういった事を考えていたら「障害学」と「京大閥」で韻が踏めることに気付きました。とはいえ「だから何」という話なので暫く放置していたのですが、どうにも頭を離れない。そんな時「韻ノート*1』なるサイトを発見したのです。短い単語なら従来から個々人が独力で探せましたが、五文字以上の長い韻がこれ程簡単に探せるのは非常に革命的ですね。本職のラッパーでさえ、もはや使わずにいることは難しい気がします。
例えば一昨日は由比ヶ浜結衣さんの誕生日でもありましたが、
「由比ヶ浜結衣が踏む韻が固過ぎ」といった長い固有名詞入りの韻は、機械を抜きにしては決して見つけられなかったでしょう。
【ワードマップ作り】
もちろん韻ノートだけでなく、テキストマイニングで自分のよく書く言葉を再発見したり、既存の知識から類語辞書や逆引き辞書を使って新しい語彙を増やしたり、等の色々な営みを組み合わせる必要はあります。それを繰り返しながら「韻の繋がりの線は緑で、意味の繋がりは赤で…」といった具合に我流でワードマップを作っていきます。
【いざライミング】
それを眺めて相応しい言葉をピックアップし、組み合わせを工夫し、声に出しつつ音の数や流れを整えると、一応ラップっぽいものはできました。
加えて、単なる言葉の羅列ではなくビートに乗せられるよう、半日くらい集中的に練習しました。しかし一昨日のSpaces本番では緊張と恥ずかしさで納得行くものは披露できませんでした。ここが多分ラッパーと俄との最大の差で、リアルとフェイクの分かれ道なのでしょう。
ただリズム感と声の良い人ならライミング可能である事は、練習の時に確認済みです。従って下記に自分の気に入ったフレーズだけ記しておきます。
【思いや掛詞も織り交ぜつつ意味の通る文にできたもの】
◉障害学の専門家だ?
所詮京大閥の健常者やん
かなりご挨拶 あたし障害ガール
普通になんてなれないでしょう
★バーチャルウォーズ対パラスポーツ
脳性麻痺者が両成敗
腕白坊主にカガクチョップして
ランダムウォークするホーキング
◆苛烈な差別 挙句挫折
でも嘆くより変える事に賭ける
✦バリアフリー事情が未確認ならばある種あみだくじ開拓地
【さほど韻が固くない短文やただの単語の組み合わせだが、妙に気に入っているもの】
①障害者雇用で商売繁盛
②車椅子からのジュブナイル
③障害当事者は交際拒否か?
④相談支援がジョー・バイデン
【未着手だが使える組み合わせは無限にありそうだなと思う語群】
◉バリア 飽きた 涙 like a 〜 マギカ
◉バリバラ 何様 出し殻
◉マニュアル化 楽屋裏
・優生思想 中性脂肪
*リアルとフェイク 医学モデル
▼施設 入れる 閉める 逃げる
▼自決 死ねる 消える
▼卑劣 キセル 行ける
◎制度 Say Ho 生保 ヘイト(⇒ヘイター) 精度 迷路
◎Fate 清楚 聖母 デート 逝去
【韻はあまり踏めないものの、語呂が良くて使いたくなるもの】
・横田横塚 母よ!殺すな
・隣の芝は青い芝
【全体的な気付き】
- 実際の所「障害者」より「健常者」の方が踏めるワードが多い。
- 当然ながら「差別」も山ほど踏める。
- 「無人駅」「片道切符」などは意味としての発展性は大きそうだし使いたい、けど本当に韻が無い。自分で考えても機械で探しても全然見つからない。何か工夫が必要。
《《韻に機械が関わることが及ぼす3つの影響》》
1つ目は上級者の世界のことです。
つまり韻を踏むハードルが下がったぶん、相対的にフロウや言葉の意味が重要になると思います。バトルなら応答性やバイブスやアティチュード、曲作りならサウンドやビートといった要素も同様でしょう。ここで素人との差を見せねばならなくなるため、より大変そうだなと感じます。
2つ目は私のようなド素人にも裾野が広がる点です。
私は別にラッパーになる予定は無いものの、非常に恩恵を感じます。それは「話したい内容が2つあるがあまり強い関係性が無い」といった場合に特に顕著です。私を例にすれば障害者問題とオタク文化です。この2つが内容的に重なる部分には当然最も強い関心があります。そうした領域を見つけ深めていくことは大変重要ですが、その鉱脈が常に見つかるほど大きい訳ではありません。無理に意味面で繋げる試みが自己目的化すると、却って肝心の内容がマンネリや支離滅裂に陥りかねません。
一方、音の連なりを用いれば意味的関係の薄い単語も脈絡なく召喚でき、シームレスな話題転換が可能になります。もちろんこれに依存し過ぎるのも良くないですが、割と射程の広い普遍的技法のように感じました。何よりワードマップを段々大きくしていく過程自体が物凄く楽しかったです。また、その時々の目的意識に応じてこれを見返すと都度都度有益な発見がありました。なのでこれは今後も育て続けるつもりです。
3つ目はラップ界に新しい語彙が豊富に逆輸入される可能性です。
ラップ界は陳腐化した似たような定型句ばかり使っている、と揶揄する向きは常にあります。しかし私はそうした偏りは当然であり無理からぬ事だと思います。韻が踏みやすく格好良くかつ実践的で使いやすい語など、一つの界隈内にそう高密度で存在する訳が無いからです。
技術が私のような全くの門外漢も含めた皆に広く開放され、素人も面白半分で韻を探せるようになったことで、今後、単語・リリックの分野的広がりは徐々に補完されていくでしょう。「韻ノートに何を代入して検索するか」を決めるのは個々の人間です。そこで入力されるのは、おそらく既存のラップ用語よりも各々の専門や関心(私なら障害や介護やアニメ)に基づくワードになるでしょう。そうして素人達が新たに見つけた言葉の網が、本職のラッパーにも還元され、そこで更に磨かれる、といった好循環が生まれれば本当に素晴らしいですし、ワクワクしております。