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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

おかしな夢2つ

 私は夢を覚えていることが少ない。目が覚めるときれいさっぱり忘れてしまう。頭の中に稀に脈絡のない断片が残っていることもある、という程度だ。ところがどういうわけか、ゆうべ見た2つの夢はかなり細部まではっきり覚えていた上に、両方結構ストーリー性があって気に入ったので、備忘のため書き記しておくことにする。

夢1

登場人物:男(おそらく私?)1人、女1人

 男が病院で女を看取っている。女は男の恋人であり、重い病気によって今まさに死を迎えようとしているところである。女は息を引き取る直前、少しだけ目を見開き、「世界ってこんなに美しかったのね」と言い残し、亡くなる。

 女が亡くなった後、この言葉が男を苦しめる。男は生まれてから一度も、世界を美しいと感じたことがなかった。世界を美しいと感じることができた恋人は生きることを許されず、世界をこんなにも醜く感じる自分がのうのうと生き残ってしまったという罪悪感。それはやがて男の中で「世界を美しく感じなければならない」という強迫観念に変わった。男は何かに駆り立てられるかのように、美しいと言われているありとあらゆる物、風景、人物を収集し続けるが、何一つとして美しいと感じることができず、虚無感だけが膨らんでいく。

 そんなある日、男は風邪薬を間違えて飲み過ぎてしまう。その時、本当に短時間だが世界を美しいと感じることができた自分に気づく。これをきっかけに、男は坂道を転げ落ちるようにありとあらゆる薬物に手を出していき、それにつれて世界はますます輝きを増していく。男は「あの人がかつて言っていた世界の美しさとはこういうことか」と得心する。しかし一方でその考えに必死に抵抗する自分もいる。「あの人が世界に見出した美しさが、こんな紛い物であってほしくない」と。あの人が最後に見た美しい世界はモルヒネが見せた幻だった、なんて、そんなの、あんまりじゃないか、と。

 そんな葛藤の日々も長くは続かなかった。量を間違えたか、粗悪品が混じっていたのか、とにかくしょうもない理由だろう。男はトリップ中に自らの死を確信する。もはやたいして自分の命に未練はなかった。男は既に、どんな薬物を使っても世界を美しいと感じることはできなくなっていたからだ。薄れゆく意識の中で男は思う。結局、この世界で美しいと思えたのは、世界を美しいと言った、その瞬間のあの人の表情だけだったことを。

 もしかしたらあの人は…(何かに気付きかけるが、ここで目覚まし時計で起こされてしまった。)

夢2(息をするように二度寝した模様)

 私と、インターネットで精神医療についての相談を受け付けている有名な精神科医(仮にH先生とする)が一緒に「ラブライブ!サンシャイン!!」を観ている。私とH先生は夢の中では親友なので、私が、アニメに興味のないH先生を半ば強引に付き合わせている。

 私「津島善子ォ! 津島善子ォ! がんばれ! がんばれ! 世界に負けるな!」

 H先生「まったく、あなたは趣味のことになったら急に生き生きしだすのですから… やはり当初の見立て通り、あなたはうつ病ではありません。擬態うつ病です。」

 私「津島善子ォ! お前には頑張ってほしいけどお前には負けたくない! 先生、この相反する気持ちは何かの病気なのでしょうか?」

 H先生「知りません。それは精神医学の範疇ではありません。そもそも、津島善子の言う『堕天使』などというのは、彼女の想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか?」

 私「そうかもしれません。でも、誰もが目に見えない輝きみたいなものを持ってるっていうの、私は分かる気がするなあ。」

 H先生は何のかんのと文句を言いながらも、夜通しラブライブサンシャイン視聴マラソンに付き合ってくれた。その後、二人でSpotifyで関連楽曲を聴き込んだりして、楽しい時間を過ごした。私は、やっぱり親友っていいな、と思った。