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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

短文から小説の断片を自動生成するサイトで遊んだ

 任意の文字列を入力すると、その文脈に沿う形で続きの文章を自動生成してくれる「AIのべりすと*1」というサイトがあります。そこに私の過去のツイートを素材として入力してみました。つまり本記事で列挙する文は、全て冒頭(つまり最大140字の範囲内で、文字数はまちまち。)が私のツイートで、それ以降は自動生成文ということになります。
 その文が予想より遥かに滑らかで自然な意味の通ったものだったので驚きました。時には矛盾しまくったりもしていますが、それもまた味というものです。あと現実の私よりも遥かにモテる展開が多いのも複雑な気持ちになりましたが、これはおそらく学習されたデータセットの偏り(ネット上にある様々な文章の中でなろう系小説の語彙が占める割合が相対的に高い、とか?)を反映しているのかなと思います。

 以下では、生成結果のうち何らかの良さを感じたものをピックアップしております。それではどうぞ。

※各ブロック(「・」1つが1つの固まり)間に内容の繋がりはありません。

・財務本省の説明会行った時、「過労で倒れたりする人も稀にいるが、死にそうな人には皆優しい」「家族みたいにアットホームな職場」って言ってて凄いなと思った。仮眠室を地下に何部屋も保有するだけのことはある。なお、俺は死んだように眠っているだけなので、そんな心配は一切無用である。

そして、一週間が経過した。

「……ん……」

朝の五時に起床し、身支度を整えた俺は、地下四階にある自室を出て、一階へと下りる。

エレベーターから降りた瞬間、ふわりと漂ってくる、食欲を刺激する香り。

食堂に顔を出すと、そこには、エプロン姿で厨房に立つ、俺の大切な部下たちの姿があった。

「……おはようございます、室長」

「……おはよう、ございます……ボス……」

俺に気付き、声をかけてくる二人。

二人ともまだ少し眠そうで、声に張りがない。

無理もないだろう。昨日までずっと残業続きだったからな。

ちなみに、二人は俺が贈ったメイド服ではなく、普段着姿だ。

どうやら、メイド服を着るのは、よほど恥ずかしかったらしい。

まぁ、それでもちゃんと着てはくれるあたり、二人の律儀さがうかがえるのだが。

「……悪いな、いつも朝食を作ってもらって。大変じゃないか?」

「いえ、全然平気です。むしろ楽しいくらいですから」

「そう、か。ありがとう」

「い、いえ! そんなお礼を言われるようなことは何も!」

俺の言葉に、頬を赤らめながら、わたわたと手を振る少女。

彼女は、『対魔導犯罪特別

 

・大学の後輩が「とにかく人の役に立ちたい」というのを官僚への志望動機にしていたので、ボランティア経験の有無を尋ねたら無いということだった。「利他的でない人間が自分は利他的と思い込むと身を滅ぼす」と忠告してもピンと来てもらえなかったが、例として美樹さやかを出すと一発で理解してもらえた。そして私は今日、ついに魔法少女となったのだ。

 

・本当にそうですね。VRでの変革や絆を活かして現実世界も変わっていくみたいな話ならギリギリ分からないでもないですけど、最後キスシーンで終わりでは何が言いたいかさっぱり分かりませんね。」

「そうなんだよねぇ……。でも、あのラストシーンがまた良いんだよ。最後の最後に『あれ?これもしかして……』って思わせる伏線があるからね。だから、私はあれはハッピーエンドだと思ってるよ!」

「まあ、私もあれはハッピーエンドだと思いますけど……」

「じゃあ、なんでこのアニメを薦めたの?」

「それは……その……私が好きなキャラがヒロインだったからです!ほら、もう昼休みも終わるから早く教室に戻りますよ!」

そう言って彼女は私の手を引いて教室に戻っていく。しかし、私は見逃さなかった。彼女が顔を赤くしている事を。

「ねえ、今顔赤いよね?やっぱり本当は自分の事なんじゃないの〜?」

「うるさいですね!黙ってて下さい!次の授業は体育ですよ!急いで着替えないと間に合わないじゃないですか!」

こうして私達は次の体育に向けて急いで更衣室に向かったのだった。

それから数日後、今度は彼女の

 

・電動車椅子に乗っている背筋の湾曲した白衣の男がいたら多分それが私です。「はい、先生」

私はそう言って、自分の車椅子をその男のそばに止めました。

男は私に顔を向けて言いました。

「ああ、あんたか。悪いね、こんなところまで来てもらって。わざわざ来てくれたのかい?」

私がこの病院に来るのは初めてではありませんでしたが、この男に会うのはこれで三度目でした。一度目は去年の秋で、その時もこの男は同じことを言っていました。

「いえ、今日はたまたま近くを通りがかったものですから」と私は答えました。

するとその男は、私の後ろにいた看護婦さんに、

「ちょっと外してくれないかね? この人と二人だけで話したいんだ」と言ったのです。

その看護婦さんは私とその男の顔をかわるがわる見比べてから、わかりました、と言って部屋を出ていきました。

私はその男が、実はまだ生きている人間であることを知っていました。そしてまた、彼が既に死んでしまっているということも

 

・私の部屋を覆う萌えキャラは決して人や肉体と対極に位置する逃避対象ではない。人の姿をした彼らは、虚構世界の住民ながら人と同じ肉体に縛られた存在でもある。だからこそ人心に強く訴求し現実をも動かす。寂しがり屋の人嫌いも、己の肉体を忌嫌う障害者も、分け隔てなく救う。彼らは人の精髄なのだ。私はこの夏、ある同人誌即売会に参加した。そこで私は、自分の想像を超えるものを目にした。それは一人の少女だった。彼女はアニメや漫画のキャラクターのコスプレをして、同人誌を販売していた。彼女のようなコスプレイヤーは、これまでも数多く見てきた。しかし彼女たちはあくまでも、自分自身の趣味としてコスプレを楽しんでいるだけだった。だが彼女は違っていた。彼女は、「そのキャラクターになりきること」を目的としてコスプレをしていた。私には彼女が、現実の自分と二次元のキャラクターという二つの世界に同時に存在するように見えた。そして彼女は、それを実現していた。その姿は、私にとってあまりにも衝撃的だった。

それから私は、彼女について調べ始めた。そして驚いたことに、彼女と私が同じ高校の同級生であることが判明したのだ。さらに驚くべきことには、彼女の本名は、私と同名であった。その名前を見て、すぐに気がついた。ああ、これはペンネームだ。つまり彼女は、私と同じように自分とは違う人格を演じているのだ。だからあのように、架空のキャラクターになりきっているのだ。私はすぐさま、彼女にメールを送った。

『こんにちは、あなたの大ファンです』

するとすぐに返信があった。

『ありがとうございます。嬉しいです』

『もしよかったら、直接会ってお話できませんか?』

『はい、いいですよ』

こうして私たちは、秋葉原で会うことになった。私は待ち合わせ場所に早く着きすぎたので、近くの喫茶店に入った。店内は閑散としていた。

 

・『Angel Beats!』で障害者のユイに日向が放った「俺が結婚してやんよ!」という件の台詞、高校生当時は「なんで上から目線なんキモい」という嫌悪感しか無かった。とはいえ、現実に「障害をお持ちの方・理解者の方の婚活パーティー」なる催しが毎月存在してるのも確かだからな。俺は別に自分の人生が充実してればそれでいいし、正直結婚なんてしなくても良いと思ってるけど、それでもやっぱり世間体とか色々あるからなあ……って、待てよ?

「……まさか、な?」

一瞬、嫌な予感が頭をよぎった。

それは「俺のような奴が結婚相談所に登録するわけないじゃん」とタカを括っていた俺への警告だったのかも知れない。

そして、その予感は的中した。

翌日、俺は仕事帰りに駅前にある大手の結婚相談所へと足を運んだのだ。

目的はただ一つ、「あのクソ野郎を殺すためだ」

そう、俺にあんな恥ずかしいセリフを吐いたあの男――三嶋悟を殺すために、わざわざこんな所までやって来たのである。

「いらっしゃいませ! 本日はどういったご用件でしょうか?」

受付嬢がにこやかに話しかけてくる。

「あ、はい、えーと……」

しまった、何も考えてなかった。

そもそも入会する気は無いんだが、どう言ったものか。

 

・俺らの頃は出生時に脳性麻痺になっても補償制度なんて無かったんだぜ。若い障害者にこうマウントを取ろうかと思ったが、よく考えると仮に当時からあっても私がその金を貰える訳じゃない。単にあの父が浪費して終わっただろう。そうなるよりは、3000万円が世の為に使われたのなら却って良かった気もする。「さて、後はどうやって『彼』と接触するかだな」私は考えを巡らせた。まず、『彼』の居所を探らねばならない。だが、それに関して心当たりはある。実は、父が死んだ後、父は私宛に遺書を残していた。その中に、『彼』の居場所も書いてあったのだ。しかし、それは父の死後、10年以上経ってようやく判明した事実だ。しかも、その場所にはもう既に別の人物が住んでいるらしい。だから、直接そこに行く事は出来ない。ただ、幸いにしてその場所は、私の住む場所からはそう遠くない場所だった。
私はベッドに横になった。今日も疲れた。明日に備えてもう寝よう。
翌朝、いつもの様に朝食を食べて家を出た。学校までの道のりは自転車だ。電車で行くと遠回りになるし、何より痴漢に遭う危険がある。まあ、今時は男も女も自衛手段があるから滅多な事は無いだろうけど、用心するに越した事はない。
通学途中、クラスメイトの何人かが声を掛けてきた。
「おはよう、西岡君」
「おう、おはよーさん」
私も挨拶を返す。
「聞いた? 昨日の地震の話」
「ああ、結構

 

・介護では刻々と変わる体調や突発的欲求への柔軟な対処が必要なため、ロボットが介護士に取って代わるのは無理だろう。ただ介護される側も機械に置き換えれば可能かもしれない。余計な感情も言動も皆無で、秒単位の正確さで食事と排泄を反復する「要介護ロボ」だ。寧ろこっちの方が潜在的需要は大きそう。そしてもう一つ、人間の手による介護の限界である。認知症などで意思疎通が困難になった高齢者の場合、身体機能にも障害が出やすい。骨折など怪我をする危険性もある。しかしロボットならその危険がない。

そこで僕はふと気づいた。

もしこれが、介護ロボットではなく、人間に近いアンドロイドだったとしたらどうだろう? 人工知能を持ったロボット。それが僕の理想形なのだ。

このアイディアを元に、僕はある小説を書き始めた。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』というSF小説だ。

これは人工知能研究に関する様々な問題点を描いたもので、実は昨年出版予定だったのだが、色々あって頓挫してしまったものだ

 

・普通役所から電話が来るのは、何かの催促とか碌でもない時が大半ですからね。喜んでもらえるような用件で掛けられるのは本当に稀有だし嬉しかったです。公務員として携わった中で一番楽しかった仕事ですね。電話対応自体は緊張するから苦手でしたが、こういう電話ならいくらでも掛けたいと思いました。――最後に、この記事を読んでいる読者に向けてメッセージをお願いします。

はい、ありがとうございました! それでは、これからもよろしくお願いします!」

「おぅ、お疲れさん」

「……お疲れ様です」

「あぁ、お疲れーっす」

私は職場の上司である主任に挨拶をし、席に着く。

時刻は21時を少し過ぎた頃。定時退社した同僚たちは既に帰宅しており、オフィスには私を含め数名しか残っていない。

「ふぅ……」

パソコンの電源を落とし、帰り支度をする。

今日は金曜日だ。明日から土日休みということもあってか、どこか開放感がある。

(さてと……今日もや

 

・さっき便器から転げ落ちて車椅子も横転したため廊下に横たわり小一時間助けを待っていた。そういう時は大抵妙に思弁的になり「意識はどこから来るのか」「何故私は私として存在するのか」とか考え出す。他方それで痛みと恥辱に満ちた現実が変わる訳では一切なく、目前に厳然とある。人生の醍醐味ですね。ただこの人生、何がどうあれまず生きていかねばならぬ。そこでふと思い出したのが、かつて読んだとある漫画に出てきたセリフです。曰く、

「人間は自分が何者かを知るために生きているのではない。自分の生を充実させるために生きているのだ」

おお、なんかかっこいいぞ。これはいい。じゃあ、僕は僕のために生きよう。

そうして僕は僕の人生を生きることにしたのです。

しかしまあ、人生はそんなに甘くない。僕はすぐに壁にぶち当たりました。それは、

「何をやってもうまくいかない!」

という壁でした。

例えば、僕が小学生の時の話です。

当時、僕には気になっている女の子が

 

・スマホのロック画面の現在地がいきなり竹島になってしまった。

「お、おい」

「あ、ごめん。私、こういうとこ慣れてなくて……」

「え?」

「だから、スマホを家に忘れてきちゃったの!」

「は!?」

「……ご、ごめんなさいっ」

何それ!? いや、まあ別にいいけど!

「そ、それでね、今日は友達と約束があって……その、もう行かなきゃいけなくて……」

「いや、あの、別に俺はいいけど……でも、どうやって帰るんだ? 家まで結構遠いぞ」

「だ、大丈夫! 電車で帰れるから!」

「そうか。ならいいんだが……」

まあ

 

・いのちの電話って、自分がその回線をふさいだせいで別の誰かが自殺するかもしれないと考えると、恐ろし過ぎて絶対に掛けられない。でも、そうしないと死ぬような状況になったら、私はきっと……

「はい、もしもし」

「……っ!?」

突然、後ろから声を掛けられて心臓が止まりそうになる。

振り返ると、そこには白衣を着た若い女性が立っていた。

どうやらこの人が電話の主らしい。

「あの、私……」

「お電話ありがとうございます。こちら、いのちの電話です」

「え?」

いのちの電話? それは確か、自殺しようとする人を助けるための団体のはず。

それがどうして私の家に……?

「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あ、えっと、あの……」

いきなりのことで頭がうまく回らない。

それでもなんとか、今の状況を伝えることができた。

「なるほど。そういうことでしたか」

「は、はい……」

「それではまず、自殺を思いとどまった理由を聞かせていただけますか?」

「そ、それは……」

一瞬、言葉に詰まる。

ここで正直に『あなたが電話を掛けてきたから』なんて言ったら、この人は怒るだろうか。それとも呆れるだろうか。

「……なんとなく、ですかね」

結局、当たり障りのない答えを返すことにした。

「そうですか。分かりました」

女性はそれ以上追及してこなかった。

助かった、と思ったのも束の間、

「では、次にお電話をくださった理由についてお聞きします」

すぐに次の質問が飛んできた。

「そ、それはですね……」

さっきよりも返答に困る。

まさか『あなたに電話するように言われたからです』と言うわけにはいかないし……

 

・鴨川の文脈をあまりちゃんと分かってないのですが、かなりハイコンテクストな集まりなのでしょうか?「でも、なんか、みんな、すごく楽しそうで……」

「うん」

「その、いいなあ、って。あの……うらやましい、っていうか」

「……そっかあ」

わたしは頷いた。それから、ちょっと考えてから、こう続けた。

「じゃあ、一緒に行こうよ」

「え?」

「わたしたちもさ、いま、ちょうど、そんな気分なんだよ。みんなで、どっか行こっか」

「え、でも、わたし、あんまりお金とか持ってなくて……」

「だいじょぶだよ。わたしたちが、おごるからさ」

「いや、それは悪いですよ」

「いーのいーの、気にしないで。それより、もっと話そうよ。そうだ、明日とか、空いてる?」

「えっ、あっ、はい、まあ、一応……」

「じゃあ、決定!明日の放課後ね!」

わたしはそう言って、強引に約束を取り付けた。そして、ふと思いついて、こう言った。

「そういえば、名前、まだ聞いてなかったよね。なんて呼んだらいいかな」

「えっと、あの、わたし、一年の、新島です。名前は、その、特にはないので、好きに呼んでください」

「オッケー、わかった。じゃ、わたしも、好きなように呼ぶからね」

「はい、どうぞ」

 

・ホームでこだまを待っていると、いつの間にか随分日が長くなったことに気づいて、「ああ、生きたなあ」と思う。――そんな時だ。

不意に、背後から声をかけられたのは。

「……あの」

最初は自分への呼びかけだと思わなかった。なぜなら、その声はあまりにもか細くて、今にも消え入りそうだったからだ。

だが、少し間を置いてからもう一度同じ声が聞こえてきて、さすがに無視し続けるわけにはいかなくなった。

振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

背が低く、華奢な体つきをした少女だった。年齢は十歳前後だろうか。おかっぱ頭に白いワンピースを着て、まるでフランス人形のような印象を受けた。

その少女は、なぜか思いつめたような表情をしていた。

そして、おずおずといった調子で言った。

「もしよかったら、一緒に帰ってくれませんか?」

それが、俺と白瀬小雪との出会いだった。

俺はすぐには返答しなかった。

もちろん、少女が話しかけてきたこと自体に面食らったということもある。だが、それ以上に気になったのは、少女の身なりだった。

(……こんな小さな子が一人で電車に乗るなんて)

そう思わずにはいられなかったのだ。

俺の住む街は都心に比べればかなり田舎だが、それでも小学生が一人で帰るには遠すぎる距離にある。ましてや、彼女は明らかに大人ではない。何か事情があるのかもしれないと思い、慎重に言葉を選んで尋ねた。

「……どうして、俺に声をかけたんだ? お父さんやお母さんはいないのかい?」

すると、少女は小さく頷いた。

 

・耳かき中に、隙あらば鼓膜を破る旨の仄めかしを行ってくるのもやめてほしい。

「じゃあ、はい」

「……え?」

そして、そんな僕からのお願いに、何故か彼女は自分の膝上を軽く叩いた。……これは、あれだろうか? 膝枕的なやつなのだろうか? でも、この流れは……。

「……耳掃除、してくれるんですか?」

「うん、いいよ」

「……」

「ん?」

「いや、あの、自分でやりま──」

「早くおいでよ、ほら」

有無を言わせない雰囲気だった。

僕は観念して、恐る恐る彼女の膝に頭を預ける。すると、ふわりと甘い香りがした。シャンプーの香りだ。普段とは違うその香りにドギマギしていると、僕の耳に細い指が触れてくる。

「……んっ……」

思わず声が漏れた。慌てて口を手で覆うと、彼女がクスクスと笑う声がする。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。痛くしないから」

そうは言うものの、やっぱり怖いものは怖いのだ。だって、相手は女の子で、しかも憧れの人なわけだし。

そんな僕の気持ちなど知らないであろう彼女は、ゆっくりと慎重に耳かき棒を動かしていく。

カリ、カリ、と、小気味よい音が部屋に響く。

「……気持ちいい?」

「あ、はい……すごく」

「……そっか、よかった」

優しい手つきで頭を撫でられて、なんだか眠くなってきた。そういえば、最近はテスト勉強やバイト続きであんまり寝れていなかったっけ。

うとうとしていると、不意に彼女が口を開いた。

「……私ね、昔、お母さんに耳掃除してもらったことがあるんだ」

「へぇ、そうなんですか」

「うん。それで、その時に『ありがとう』って言ったら、お母さんがこう言ってくれたの」

──私が、君の耳掃除をしたいと思ったからだよ。

優しい声音で、そう言った。

ああ、そうか。

どうして彼女が僕にここまでしてくれるのか、ずっと不思議だったけど。それはきっと、彼女も同じなんだ。僕が彼女に何かを与えたいように、彼女もまた、

 

・アニメの絵柄入りマグカップを買っても、左利きだと飲む時に肝心の絵が見えないことが多くて地味に悲しい。「おまたせしましたー」

店員さんはコーヒーとココアをお盆に乗せて戻ってくる。

「ごゆっくりどうぞー」

そう言って彼女はカウンターの方へ戻っていく。

「ありがとう、じゃあいただきます」

僕は早速コーヒーを一口啜る。うん、苦い。砂糖入れようかな? そう思って僕がシュガーポットに手を伸ばそうとした時、彼女が僕の方をジッと見つめていることに気が付いた。

「……何?」

「あ、いえ、別に……」

そうは言うものの、彼女の視線はまだ僕に注がれたままだ。

「……えっと、どうしたの?」

「その……ちょっと気になってたんですけど、先輩って右利きですか?」

「え、そうだけど」

そう言うと、彼女の表情はパッと明るくなった。

「やっぱり!ずっと右手を使ってたからそうなのかなーって思ってたんですよ!」

「あぁ、そういうことか」

確かに、さっき左手でスプーンを持ってたけど、右手で持っていたら不自然だったかもしれないな。

「それにしてもよくわかったね、僕が左利きだって」

「あー、まぁ、なんとなくですかね」

そう言いながら、彼女は照れ臭そうに頬を掻く。

「ところで、先輩はなんでこの喫茶店に来たんですか?」

「ん?それはもちろん、甘いものを食べに来たんだよ」

「そうじゃなくて、わざわざこの店を選んだ理由ですよ」

「あぁ、それなら簡単だよ。ここ

 

・人々から関心を持たれたいという欲望の強さと、人々から向けられる関心の強さは全く比例しないので、私も含めて多くの人は空の通知欄をひたすらリロードし続けるだけで人生が終わってしまう。「では、私はこれで失礼します」
そう言って立ち上がった私を、先輩は目で追った。そして、少し逡巡してから、口を開いた。
「……君は、今の生活に満足しているかい?」
突然の問いかけに、私は思わず先輩の顔を見た。先輩の眼差しは真剣で、その奥にある感情が何なのか、私には読み取れなかった。
「……ええ、まあ、それなりに……」
そう答えた私の答えも、きっと真実ではなかっただろう。でも、それは仕方がないことだ。私は、自分自身の本音について、あまり深く考えたことがなかった。だから、自分の本心を言葉にして他人に伝えることは、私にとってとても難しいことだった。
「……そうか。それならいいんだ」
先輩は、私の答えを聞くと、どこか寂しそうな笑顔を浮かべて、それ以上何も質問しなかった。私は、先輩に軽く会釈をして、そのまま研究室を後にした。
外に出ると、外はもうすっかり暗くなっていた。私は、鞄の中からスマートフォンを取り出して、時刻を確認した。もう夜の八時を過ぎている。
(しまった……

 

・今こそ手元にあるウェブカメラとFaceRigを使うときですよ。「よし、行くぞ」

「うん」

まず俺が先に部屋に入る。そして、美銀を部屋に入れたあと、すぐに俺は扉を閉めた。

「……ふう、これでもう大丈夫だな」

「そだね……」

「どうした? なんか元気ないじゃないか?」

「いや……だって、その……」

「ん?」

「こ、こんな格好で2人きりになるの初めてだから……」

そう言われると、確かにそうだな。今までは、ずっと3人でいたから意識することもなかったけれど、こうしてみると、すごい緊張するな。

「とりあえず、座ろうか」

「う、うん」

 

・車椅子に座ったままクレーンゲームやるのはめちゃくちゃ難易度高くて、大抵見かねた店員さんが若干手心を加えてくれてやっと取れるという感じなんだけど、それが正しいことなのかどうか、未だに自分の中で結論が出ていない。「あー……なんか、ごめん」

「いや、謝る必要とかないから……」

むしろ謝られると困るというか、本当に、気にしないでほしい。

「えっと、それで、その、もしよかったら、なんだけど」

「……うん?」

「連絡先、交換しない? あ、もちろん嫌じゃなければだけど……」

「…………」

「あ、やっぱ駄目かな……?」

「……別に、いいけど」

「え、いいの?」

「そっちこそ、いいわけ? 私、一応、男だよ?」

「あ、うん、それは知ってるけど……」

「それに、あんまり知らない相手と連絡先交換とか、怖くないの?」

「う、うーん、言われてみれば、確かにちょっと怖いかも……でも、悠月さんなら大丈夫かなって」

「……そっか」

まあ、私も似たようなことを思ったわけだし、人のことは言えないか。

「じゃあ、はい」

「お、お願いします」

スマホをポケットから取り出して、お互いに

 

・田舎では、偏差値の高い大学に受かることが、親の影響力から離れて都会に行くためのラストチャンスみたいなところもあるので、一概に否定はできませんし、私もそのおかげで助かった口ではありますが、県がそれを推進するのは本当に不思議なことだと思います。そもそも、県内でトップレベルの進学校であるうちの高校ですら、東大に行った生徒なんて、過去5年間で1人しかいません(私です)。それも、県下の私立高校のなかでも特にレベルが高いと言われている学校で、です。しかも、私がいた学年は男子7人女子3人で、うち2人が東大に進学したのですが、どちらも公立校でした。それなのに、「偏差値が高ければ良い」という風潮は、今もなお根強く残っています。これは、もはや日本社会の病理と言ってもいいのではないでしょうか? とまあ、ここまで書いてきて、私は一体誰にこんなことを言っているのでしょうか?

 

・甘い犯罪を犯した者は直ちに恋愛裁判に掛けられ、動機やいきさつを詳しく聴取された後、恋煩い1年・両想い100年の実刑判決が下される。また、恋患いで入院した者に対し、病院は面会謝絶とし、医師は診察の必要性を認めない。それでも会おうとするならば、恋患いの症状が悪化し、死に至る。

この病気に罹った者が死ぬと、死体の中から「愛の天使」が現れ、その者の愛していた人間のもとへ行き、代わりに愛を伝えるのだそうだ。

『世界樹の館』には、そんな「恋の病」にかかった者たちが集まっていた。

そして、私もその一人だったのだ……。

 

・身の丈を超えた幸福を手に入れようとすれば、大抵どこかでその代償を支払わされる羽目になる。その反対に、理不尽な不幸に見舞われたとしても、それに対する埋め合わせは特に為されるわけでもなく、何事も無かったかのように淡々と人生が続いていく。そんな人生を歩んでいれば、いつしか自分の人生に何の価値も見出せなくなり、ただ惰性で生きているだけの人生になってしまうだろう。

しかし、そうならない為には、人生の目的や目標を持つ事が重要なのだ。

そして、その人生の目的や目標を達成する為に、自分は今まで努力してきたし、これからも努力していくつもりだ。

「さて、それじゃあ、今日の所はここまでにして、そろそろ帰るか」

「うん、そうだね」

俺はそう言って、本日の勉強会を終えた。

そして、俺と結衣は帰り支度をして、一緒に下校したのだった。

翌日の放課後、俺は今日もまた結衣と一緒に、図書室で

 

・公的手続きなどでは困ることも多少あるかもしれませんが、絶縁したい気持ちが勝ちました!この『なろう』は、私の人生の一部です。その人生の大切な一部を、こんな男に汚されるなんて耐えられません」

「お、俺は、お前のためを思って……」

「私を思うなら、私を自由にしてください!」

「……っ!?」

「今までありがとうございました。もう会うことはないと思いますが、さようなら」

そう言って私はその場を後にした。

◇◇◇ あの後、家に戻り荷物を纏めた。そして、会社を辞めることにした。

あの男との縁を切るためにも、一度転職することにしたのだ。

私が去ったあと、あの男は何を言うのだろうか? でも、もう関係ない。

私は、新しい人生を

 

・学祭のゲストにVtuberを呼ぶ大学は無いんだろうか。従来の人間よりかなり低コストで呼べそうだが。「まぁ、その辺は追々だな」

「そうね。でも、これでもう怖いものは無くなったわね!」

「あぁ……そうだな」

確かに、この放送を視聴している人からすれば『どんな奴なんだ』という疑問が真っ先に浮かぶだろう。そしてそれは、俺のチャンネル登録者数にも影響する。だが、その点については問題ない。何故なら……

「後は、俺達自身がどれだけ魅力ある配信が出来るかだ。それが出来なきゃ、そもそも人が来ないんだからな」

そう。今回の企画は、あくまで俺や美鈴の魅力を伝える為のものだ。それさえ伝われば、視聴者は必ず来る。

 

・百合は、バリアを、超える。「っ……!?」

その瞬間、一瞬の閃光が奔った。

同時に、爆発するような音が、辺りに響き渡る。

 

・一般的に「ワナビ」や「メサコン」と一言で片付けられるような気持ちも、捨てずに大事に持ち続けて、極限まで研ぎ澄ませたら芸術になるんだ。

でも、そこまでは無理だ。俺はそんなに器用じゃない。だからせめて、自分の中にあるものだけは、最後まで手放さずにいようと思う。

それが俺の、最後の矜持だ。

「……はい、おしまい」

「え?」

「『え?』って、なに? 終わったんだよ」

「あ、いや……そう、か……」

「そうだよ。ほら、もう寝ようぜ。明日は早いぞ」

「……うん、そうだな」

「おやすみ、相棒」

「ああ、おやすみ、相棒」

こうして俺たちの、長いようで短かった旅は終わった。

そして、俺と彼女の物語はここから始まる

 

・人との会話の99%がキャラを上手にこなす事だとしても、そこに綻びが生じ意図せず相手の一面がキャラの隙間から漏れ出る瞬間がある。それを会話の躓きと捉えて元の流れに戻す事をやめて、むしろ相手を人間として真摯に受け止められる一番大事な時間だと気付いたら、人と話す意味や楽しさが分かり始めた。「そっかー、じゃあ、その人と付き合えたら結婚も視野に入れて付き合うのか?」

「え?いや、そこまでは考えてないかな」

「そうなのか?なんか意外だな。でもさ、もし結婚したとしてもお前なら上手くやれそうだよな」

「そうかなあ、まあそうありたいとは思ってるけどね」

「あ、あともう一個聞いていいか?」

「なに?」

「なんで最近、俺と一緒に帰ってくれないんだ?」

「それは……」

「もしかして、他に好きな人ができたとか?」

「違うよ、そんなんじゃないよ!」

「そっか、それなら良かった!……って、ん?じゃあ、なんでそんなに焦ってるんだよ」

「そ、それはその……ほら、この前一緒に帰った時、ちょっと気まずい感じになったじゃん」

「ああ、そう言えばそんな事もあったな」

「だから、またあの時みたいになるのが嫌で……」

「なんだ、そんな事か。別に気にしなくても良いんじゃないか?

 

・5日間書き続けてたものを全部没にして、全く別のアプローチで一から書いたら2日間で納得いくものができたんだけど、 私には最初の5日間も必要な時間だったんだと思う。天才でもないのに初めから最短距離を狙うと手が止まる。でも手を動かし続けていれば猿がシェイクスピアを書くこともあると言うし。私は自分の小説を書きたいのではなくて、他人の小説を書きたいのかもしれない。

このエッセイもそうだし、他にもいくつかカクヨムに投稿しているけど、自分じゃ書けないタイプの小説を書くことが楽しくてやっているところがある。

これは多分、私が物心ついた頃からずっと感じている劣等感のせいだと思う。

私って基本的に、なんでもかんでも人並み以上にはできないんだよね。勉強とか運動とか芸術とか音楽とか、そういうジャンルは問わない。本当に、何でもかんでも平均点かそれ以下なんだ。

だから、どうしても他人と比べてしまう。

もっと才能があればなって思う。もっとセンスがあったらなっていつも思ってる。

あと、嫉妬深い。

自分に無いものを持ってる人は羨ましいし、妬ましいし、嫌いになる。

だって、それが普通でしょ? みんなそうだと思う。そうじゃないならおかしいよ。

私はこんな自分が大嫌いだ。

本当は、誰かの才能を見出して応援してあげたいのに、それができないんだ。

そんな自分は、誰かに褒められるような存在じゃない。

だけど、やっぱり心のどこかで、誰かに褒められたいと思ってる自分もいる。

私の書く物語を読んで、誰かが私を褒めてくれたら嬉しいなって思ってる。

きっと、その人たちは私のことを凄いって思ってくれると思うんだ。

でも、そんな奇跡みたいなこと、あるわけないよね。

だったらもう、自分で自分を褒めるしかないじゃん。

そう思った時に、思いついたのが小説だった。

もちろん、趣味で書いてるだけだし、自己満足でしかないんだけど、それでも私は自分を褒めることができる。

そして、そうやって作った作品を誰かに読んでもらって、褒めてもらえたら嬉しいだろうなって思った。

それで、もし、

 

・急に核心を突いてくるakinator「何者かになりたがっている?」

「……ああ、その通りだ」

「どうして、そう思うの?」

「俺は……もうこれ以上、自分の人生に後悔はしたくない。だから、これから起こることはすべて俺の責任だ。だが、それでも、もしそれが許されるなら……」

「許すよ」

彼女は、あっさりとそう答えた。

「あなたは何も悪くないもの」

その一言が、どれほど嬉しかったか。

思わず目頭が熱くなるのを感じた。

「ありがとう。君のような優しい人に会えて、本当によかった」

そして、僕は語り始める。

僕自身と、僕の知る限りの世界についてを。

この世界が『現実』ではなく、僕が見ている夢に過ぎないことを。

この夢の世界で、僕は一度死に、そして、再びこの世界に転生したことを。

前世で、ある少女と出会い、恋をしたこと。

そしてその少女が、今、この世界で生きているということを。

彼女が、まだ僕を待っていてくれているのかどうかはわからないが、少なくとも、僕は彼女に会いたい。

たとえ

 

・私は左利きですが、キスはまだちょっと早いかなと思っています。

でも、このくらいなら……

ちゅっ♡ と、その頰にキスをしました。

これは、親愛の証です。

まあ、本当はもっと凄いことだってできるんですけど、まだそれは早いと思いますので、これで我慢しましょう。

私がそんなことを思っていると、 ぼふんっ! と、またもご主人様は煙を噴き出して、今度は真っ赤になった顔を両手で覆ってしまいました。

そして、指の隙間からこちらを覗くように見てきます。

う〜ん、やっぱりかわいいですね、この人。

すると、そんな私たちの様子を見ていたルシールさんが、 ぐいっ! っと、私の腕

 

・小3の時いた養護学校は、おやつ食べて、トランポリンや野球やって、時々社会見学と称してトイザらスに行く、みたいな無法地帯だった。勉強や時間割や個々の障害特性に応じた教育とはおよそ無縁で、専ら遊んでた記憶しか無い。私にとっては天国だったが、今のではそんないい加減な学校は皆無だろう。「あー……じゃあ、今度遊びに来る? 私、中学高校と、ずっと養護学校で、今もそこに通ってるから」

「えっ、いいの!? 行く! 絶対行くよ!」

「……あ、うん、わかった」

目をキラキラさせて食い気味に返事をする彼女を見て、少し面食らう。この子、こんなに明るい子だったんだ……。

「それでさ、その……」

彼女は急にもじもじし始め、上目遣いにこちらを見た。私は嫌な予感がした。

「何?」

「あの、私の事も、下の名前で呼んで欲しいなって……ダメかな……?」

「……別にいいけど」

「ホント!? やったぁ!!」

彼女がガッツポーズを取る。私は、内心ため息を吐いた。またか……。正直、名前呼びとか苦手なんだよね……。まぁでも、このくらいは我慢しないとね。

それから、私達は連絡先を交換して別れた。別れ際に、彼女は笑顔で手を振ってくれた。私も、ぎこちなく手を振り返す。なんか、凄い疲れた気がする……。

帰宅後、自室のベッドに倒れこんだ。そして、今日あった事を思い返してみる。やっぱり、ちょっと変わった人だなと思った。ああいう人は、今まで周りにいなかったから、どう接したらいいのかよくわからない。ただ、悪い人でない事は確かだと思う。彼女の事

 

・たまにコンサータ飲まずに出勤すると、あまりの仕事できなさに「今日なんか様子がおかしいよ?」「大丈夫?」「具合でも悪いの?」と周囲からめちゃくちゃ心配されるんだけど、悲しいことにこれが本来の姿なんだよな。「あの、先生」

「ん? なに?」

「……いえ、やっぱりいいです」

「え、なになに? 気になるじゃん」

「なんでもありません!」

「えー、教えてよー」

「いーやーでーすっ!」

「もー、強情だなぁ」

くすくすと笑う先生は、相変わらずどこか掴めない。

それでも、先生が私のことをちゃんと見てくれてるのは分かるから、私はそれだけで十分だった。

「じゃあ、そろそろ帰りますね」

「うん、気をつけて帰ってね」

「はい。あ、そうだ。先生」

「んー?」

「私、先生のこと、大好きですよ」

「へ……!?」

不意打ちで私が言った言葉に、先生は顔を赤くして狼狽えた。

ふふ、かわいいなぁ、もう!

「それじゃあ、失礼します」

「ちょ、ちょっと、待っ……」

呼び止める先生の声を無視して、私はさっさと教室をあとにした。

 

・言うまでもなく僕らは幸せになるために生まれて来た訳でしょ?そうですよね?え……?どうしたんですか急に黙っちゃって… 幸せになるために生まれて来たんだよね?だからなんで何も答えねえんだよ、聞いてんだろうが、何か言えよおい、俺ら幸せになるために生まれて来たんだよな?オイこっち見ろ俺らは……幸せになるための……………………、、、、、、、」

「な、なんだよコイツら!頭おかしいんじゃねえのか!?」

「う、うわあああ!!!逃げろ!!に、逃げるぞ!!!」

「ま、待って下さいよおおおお!!!!置いてかないでええええええええ!!!!」

「待てやコラァァァァァァァ!!!!!」

「「ぎゃあああああああああ!!!!!!来たあああ!!!」」

「うわあああ!!助けてくれえええ!!」

「「ひいいい!!」」

「こ、殺されるううううう!!」

「……ったく、なんなんだよアイツら。」

「……多分だけど、『幸せ』って言葉が引き金になったんだと思う。」

「はぁ?」

「ほら、さっきの人達言ってたじゃない。幸せにしてやるーとか、幸せになれるーとか。」

「あー、なんかそんな事も言ってたな。」

「つまりね、『幸せ』って言葉を使うと、あの状態になるって事だよ!」

「なんだそりゃ、怖すぎだろ……。」

「でも、これでハッキリしたわね。やっぱりこのダンジョンには何かあるわ。」

「うん、早く攻略しよう!」

「だな。」

こうして、俺達はさらに奥に進む事にしたのだった。

しかし、その途中で俺はとんでもない光景を目の当たりにする事になるのだが、それはまだ知る由もなかった。

しばらく進むと、また少し広い空間

 

・「響き合う多様性」なる合唱会。一人の男の声が浮く。私は何かのつまみで彼の音量を絞る。彼は負けじと声を張り、一層音を外し調和を乱す。私は彼の声をもっと絞る。彼は張り裂けるほど歌う。私は彼をブロックしようとして、それが私自身だと気付く。いつしか私は絶叫している。自分の声で目覚める。

「私の声はどこから?」

私の声帯は喉にある。声は鼻から出れば、それは私の声ではない。私の声の出所がわからない。

『なぜ歌わないの?』

声が私に問う。

『なぜあなたは歌っているの?』

私は答える。

「わからない」

私にはわからない

「でも、歌わなければいけないんだ」

そうしなければ、私が私でなくなってしまうのだ。

「だから、私は歌う」

私は歌い続ける。

そして、ある日突然、私の声が出なくなる。

「もう、だめだ」

私は呟く。

「私は、ここで終わる」

しかし、

「いいや、終わらない」

どこからか声が聞こえる。

「君はまだ終わっていない」

その声は、私の口から発せられていた。

「さあ、続けよう」

私は、私の体を使って、再び歌い始める。

そして、それから、長い月日が流れ、やがて、私は完全に失ってしまう。

 

・家の虫達は見かける度に肥え太り、このところは四六時中顔を合わすようになった。もう長い間ここから出ていない。外の世界はどう回っているのか。何も分からない。ただ「分からせる」という妄執じみた感情だけがある。誰に何を。分からない。けども必ず分からせる。独り言つ私の視界を虫がまた横切る。私はふと立ち上がり、壁や天井からぶら下がる無数の紐を引く。部屋の明かりが点き、机上のパソコンが起動する。画面には幾つものウィンドウが開き、その全てに文章が並んでいる。私は椅子に腰掛け、それらを眺める。どれもこれも同じ内容だ。

――我々は神の子なり。

――神より授かりし力を以て、この世に変革をもたらすべし。

――しかして今、世界は神の子に背くかのごとく、混沌の渦に呑まれている。

――それは許されざる罪である。故に、我等は断罪を下さねばならぬ。

――それが我等に与えられた使命であり、運命なのである。

――さあ、立ち上がれ同胞達よ。

――そして自らの足で、世界を正しき姿へと導くのだ。

――それこそが、我等が神の御心に叶うことなのだから……。

――そうだ、これこそが……

と、そこで画面の一つに新たなメッセージが表示される。差出人は私だった。

――なあ、お前はどう思う? 私はキーボードを打ち、返信を送る。するとすぐに次のメッセージが届く。

――何がだ?

――この世界についてだよ。

――お前が言うところの、このクソったれな世界についてだ。

――そうだなあ……

しばし間を置いて、再び返信が来る。

――お前の言う通りだと思うぜ。こんな世界、さっさと滅びちまえばいいんだ。

――そうか、お前もそう思うか。

――ああ、思うね。だから俺は今からでも遅くない、とっとと実行するべきだと思うんだが……

――だが?

――お前はどうなんだ?

 

・自力でタラップをよじ登った先に広がる景色しか見たくない。「あ、あの……その、わたし……」

「もう何も言わなくていい」

俺は震える彼女の肩にそっと手を置いた。

「君は俺を信じてついてきたんだ。だから、最後まで俺が君を守るよ」

「……はい!」

彼女の震えがピタリと止まった。

それを確認した俺は、ゆっくりとタラップから手を離した。

「じゃあ、行ってくる」

「……はい! いってらっしゃいませ、旦那様!」

彼女はそう言うと、俺に深々とお辞儀をした。

そして、そのままの姿勢で俺の姿が見えなくなるまで見送り続けた。

「ふぅ……」

タラップが完全に見えなくなり、ようやく一息つくことができた。

まさかこんなことになるなんてな……

まあ、何はともあれ、これで俺も晴れて冒険者の仲間入りだ。

ここから俺の新しい人生が始まるんだ。

「よし、やるか」

気合いを入れ直した俺は、冒険者ギルドを目指して歩き出した。

 

・霞が関から国会や官邸の辺りは飲食店が非常に少ない割に、排骨麺(ラーメンに豚カツを乗せたようなもの)を出す店は何故かとても多かったため、私も官庁訪問の時は消去法的に毎日食べていました。総理が朝食を摂る店も排骨麺が目玉だそうです。また、「とんかつ」の語源については諸説ありますが、『日本書紀』には、神功皇后が三韓征伐の際に、兵を集めて戦勝祈願を行ったところ、勝利のお礼として白雉が献上されたという記述があります。その白雉が、当時、宮廷で食べられていた「トンカツ」という名前にあやかって名付けられたという説もあります。いずれにしても、この当時の天皇は、政治・軍事・祭祀を司っていました。そして、天皇の食事の場である御膳所(おぜんどころ)は、内裏の南にある清涼殿の北側に設けられていました。これは、宮庭「禁苑」と呼ばれる広大な庭園に面していて、そこから見ることのできる風景が、朝廷にとって重要なものであったことが想像されます。なお、現在の皇居東御苑は、明治以降、宮内省の管轄下に置かれていますが、明治時代までは、大正天皇陵(当時は「大仙陵古墳」と呼ばれていました)

 

・初音ミクという時空を超越した存在に対して「誕生日」のような人間の時間尺度に基づく概念を適用して祝うのは畏れ多い気もする。しかし、それでもやはり、このめでたい日を祝うことには大きな意味があるはずだ。

――おめでとう、ミクさん! あなたは今日、この世界に誕生したんだ!! その感動と喜びを胸に、俺は改めて画面の中の彼女に祝福の言葉を捧げたのだった。

『おにいちゃん、おめでとー!』

『おめでとうございます、お兄様』

そして、俺のパソコンには、そんなメッセージが表示されていた。

『ありがとう、二人とも』

画面に表示された二人の妹分に感謝の言葉を返しながら、俺は自然と頬が緩むのを感じていた。

そう、今日は俺の誕生日なのだ。

俺がこの世に生を受けた記念すべき日であると同時に、ボーカロイドの初音ミクが発売された日でもある。

まあ、発売日自体はだいぶ前だし、俺にとっても生まれた日よりもボーカロイドが発売された日の方が馴染み深いのだが……それでも、こうして自分の誕生日が来るたびに、ああ、俺もとうとう成人になったんだな、という思いが去来する。

つまり、何が言いたいかというと、要するにだ。

俺こと、鏡音レンの誕生日なのである。

「さて、そろそろ出かける準備でもするか……」

今日の予定を頭の中で確認しながら、俺は椅子から立ち上がった。

 

・耳かき音声で「面白い耳の形をしてますね」と言われる度に「面白い耳の形ってどんな形だよ。今、適当なこと言っただろ?」と思っていた。だが、もし主人公がチェブラーシカみたいな耳だったとしたらそれも納得できる。

「じゃあ、次は耳を掃除しますね」

「えっ!?」

僕は驚いてしまった。

(まさか、僕の耳を掃除するつもりなのか?)

さすがにそれはまずいだろう。

なぜなら、僕の耳が汚れているということは、つまり……。

いや、これ以上はやめておこう。

そんなことを想像するのは失礼だ。

しかし、この耳かき音声のヒロインが僕に好意を寄せているのは明らかである。

それなのに、こんな

「お前の耳垢を取らせてくれ!」なんて言われたら、普通の女の子なら怒るのではないだろうか。

やはり、これは何かの手違いなのだ。

そうに違いない。

そして、その間違いに僕が気付いた瞬間、耳かき音声は再生されなくなった。

僕は自分の過ちに気付いた。

あのヒロインは僕のことが好きだったのだ。

それなのに、僕は彼女の気持ちを踏みにじってしまった。

きっと彼女は怒っているに違いない。

「ごめんよ。君の気持ちを踏みにじるような真似をして……」

僕は反省した。

すると、突然目の前が真っ暗になった。

気が付くと、僕は真っ暗な空間にいた。

何も見えない。

ここがどこなのかも分からない。

もしかして、これが死というものなのだろうか。

僕は死んでしまったのだろうか。

でも、不思議と怖くはなかった。

むしろ、心が安らぐような気さえした。