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ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)。文春オンラインなどに執筆しているライターです。多くのヘルパーさんのお陰で、一人暮らしも気付けば10年を超えました。

相談できる強さ・愚痴を聞ける強さ

 過去の記事で、人にものを相談するには相談内容を適切に整理するする技術が必要だと書いたことがある。

double-techou.hatenablog.com

 しかし、どのような形であれ相談ができるという時点で強者であり、それ以前の所で躓いている人もいるのだと分かってきた。つまりそもそも相談ができない、自分が困っているから助けてくれというのが言えない人たちである。そういう人に対しては、こちらが無理矢理相手の話から問いを見つけ出し体系化してそれに対応する答えらしきものを提示しても何にもならない。相手がまだその段階には無いからだ。だからひたすら傾聴することが大事であり、それだけでも相手にとって大きな助けとなる。そのことは頭ではよく分かっている。分かっているのだができない。私は弱い。

www.ted-ja.com

 

 上記のことについて具体例に即して話したい。私には親友と呼べる人間がこの世でたった二人だけいる。そのうちの一人は高校の同期で、大学で離れた後も長年に渡ってほぼ毎日LINEをやり取りする仲だ。彼は今年就職したのだが、仕事がものすごく辛いようだ。今年度に入ってからLINEで送られてくる内容は仕事に対する不満ばかりになった。例えば、精神を削られるとか、こんなものは虚業だとか、やりがいを感じないとか、上司がクソだとか、etc…… これは相談の形を取っていないということがお分かりだろう。彼はとてもプライドが高い。故に「このような点で私は困っているので助けてほしい。どうしたらいいだろうか?」という風に助けを求めることができず、常に外部への攻撃・否定という形を取ってしまうのだ。

 私は始めなんとか「相談」に乗ろうとした。まず彼がどうしたいのかが分からないとアドバイスのしようがない。しかしそういった質問を投げかけても、はぐらかされたり茶化したり無視されてしまう。言うのが恥ずかしいのか、そもそも自分でも分からないのかもしれない。そうなると、次善策として「彼の苦しみはどうすれば無くなるのか?」とこちらで考え、そのために考え得るアプローチをいくつか提案することになる。「仕事を辞めたら?」「フリーターになったら?」「生活保護で暮らすのは?」「ノルマを一切無視したらどう?」「上司が代わるまで我慢するのは?」「上司に刃向かってみたら?」「発達の診断を受けて障害者手帳貰ったら?」etc…… ところがこれに対しても明確な返事は無い。少なくとも一つたりとも実行はしていないようだ。それでいて愚痴は無限に垂れ流されてくる。私もいい加減うんざりしてきた。私は負の感情を放り込むダストシュートではない。彼が「自分がどうしたいのか」ということに向き合い、それに合わせた解決策を試していく以外に彼の人生を良くする方法は無い。そしてその手伝いならいくらでもするつもりでいた。でも、彼にその意志がなくただ不満を垂れ流すだけならば、そんな会話に何の意味もない。

 私は意を決して「相談なら聞くが愚痴なら聞かない。」とはっきり言った。以来彼から連絡は無い。

 しかし、悩みを抱えている人というのは往々にしてアドバイスを求めているのではなく、話を聞いて欲しいだけらしい。愚痴を聞いてもらうことで、何か具体的な解決策は出て来なくとも、少しだけ気持ちが落ち着き、前へ進む力が湧く。つまり私がすべきだったのは「相談に乗ること」ではなく「愚痴をただ愚痴として聞く」ことだったのではないか。私はそれを数少ない親友に対してすらできないほど器が小さく、弱い人間なのだ。

 彼は今頃どうしているだろうか。とにかく死なないでくれればそれでいいと思う。生きていて欲しい。それ以外何も望まない。望む資格も無い。