ダブル手帳の障害者読み物

身体障害1級(脳性麻痺)・精神障害3級(発達障害)です。

キャリア官僚無内定者の官庁訪問狂騒曲

 この記事では、関西の大学から国家公務員総合職試験に合格し官庁訪問で全落ちした私が、官庁訪問のことを中心に採用プロセスで印象に残った諸々を書いていきます。

 まず、国家総合職試験や官庁訪問のあらましについては総合職試験採用情報|国家公務員試験採用情報NAVIをご覧ください。私が国家総合職(以下、官僚)を目指していたのは数年前なので体験談と現行制度に食い違いが生じるかもしれませんがご了承下さい。また、本記事は伝聞情報を多く含みますが、その正確性は保証いたしかねます。本記事を参考にされた結果生じたあらゆる事象に対して一切責任は負いかねますのでご了承下さい。

 

官庁訪問前

1.大学歴編

  • 内定者のプロフィールを見ていれば分かりますが、東大卒が減ったとはいえ、官僚になりたいのであれば少しでも偏差値の高い大学に行く方が無難です。感覚で言うと内定者のうち東大が40%、京大が20%、他旧帝大が20%、早慶が15%、その他5%ぐらいだと思います。
  • 東京近辺の大学出身者に集中しないよう、地域枠がある省庁が多いと言われています。東北大、名古屋大、九州大、北大はその恩恵を受けられますが、阪大や神戸大は京大が近くにあるためその恩恵を受けることができません。
  • 省庁による説明会は関西だと圧倒的に京大でやる回数が多いです。一度「他の大学でももっとやって欲しい」と伝えたところ「単純に官僚になる人の中に京大出身が多いからそうしてるだけ。他意はない。」と堂々と言われました。だからといって京大でやりまくってたらますます京大生に偏るのではと思いますが、言っても仕方が無いので諦めましょう。私は京大生ではありませんでしたが一生懸命京大に通い、説明会には殆ど全部出ました。
  • 東京近辺の官僚志望者の情報ネットワークは非常に発達していると聞きます。また、東京の大学生は官庁訪問にも実家や下宿から直接アクセスできますから金銭、時間、精神面で圧倒的に有利です。そう考えると官僚志望者は一浪してでも東大に行く価値はあると思います。

2.京僚会

  • 関西の官僚志望者グループを「京僚会」と言います。官庁訪問対策のために志望省庁別に勉強会を行うのが主な活動です。ここで様々な非公式情報がやり取りされるため、京僚会に入らないという選択肢は事実上ありません。どの大学の学生でも入れますが、団体名の通りその中心はやはり京大生であり、勉強会も殆どが京大で開かれます。私も一時期は自分の大学より京大に通う回数の方が多いくらいでした。ただ元々京大生を母体にした組織でしょうから、そこに入れてもらっているという立場上文句は言えません。
  • 勉強会でリーダーシップの労を取ったり、しっかり準備をして皆にとって有益な情報を共有しようという人はやはりよく内定を取っていった印象があります。

3.内定者の実像

  • 京僚会や各省の説明会では、前年度内定者の合格体験記がもらえます。これを見て官庁訪問の情報を学ぶわけですが、生存者バイアスの塊のような読み物なのであまり真に受けすぎないようにしましょう。
  • 当たり前ですが意識が高い人が多いです。良く言えば高い志がある、悪く言えばメサイアコンプレックス、自我が肥大気味。「日本を救いたい」「一緒に日本を良くしていきましょう」ぐらいはバンバン言います。まあ超絶劣悪過労死上等の職場環境にわざわざ飛び込んでいこうとするのだから、それぐらいの気概がないとやっていられません。少なくとも入省時点では、世間の官僚のイメージとしてあるような、保身のみを考え私欲のままに権力を貪ろうという人達では全くないです。特に防衛省内定者などは凄くて、「日本を守るために生まれてきた」と平然と言ってのける人もいました。
  • 帰国子女が意外と多い。「海外生活で、世界から見た日本の立ち位置や特性を客観的に把握するとともに、日本人としてのアイデンティティに目覚め、自分が日本を良くしていきたいと思った」という志望動機を作ってくるパターンが多い。
  • 当時(今も続いているのかもしれない)はどの省庁も元々低い女性の比率を上げるために女性を積極的に採用していました。それもあってか内定者には女性も多いです。「女性の方が官庁訪問で圧倒的に有利」というのが暗黙の了解であり、中にはそれに反発する男性もいました。

官庁訪問

独特の熱気
  • 官庁訪問には全体的に謎の熱気があります。たとえるなら甲子園のような感じです。官庁訪問には決まり事や形式的な儀式、手順、言い回しが多く、それが一種のゲームのような雰囲気を作り出すのだと思います。 
官庁の序列
  • 当然ですが、一般的に受験者は志望度の高い官庁から回り、官庁は早い日に来た受験者ほど優遇します。その結果として各官庁の人気に応じて自然と内定難易度の序列が生まれ、難しい順に、1日目官庁(1日目に訪問しないと採用されにくい官庁)、2日目官庁(2日目までだったら十分可能性がある官庁)、3日目官庁(3日目に回っても十分可能性がある官庁)と呼ばれています。時代によって変わると思いますが、私の頃は概ね以下のような感じでした。それにしても、官庁によって扱う政策分野が違うのに官庁間で序列ができるというのは考えてみると不思議ですね。

   1日目官庁…総務省、外務省、財務省、経済産業省、警察庁

   2日目官庁…内閣府、文部科学省、厚生労働省、国土交通省

   3日目官庁…人事院、会計検査院、農林水産省、環境省

控室
  • 官庁訪問で一番滞在時間が長いのが控室です。この控室から面接に呼ばれ、終わればまた控室に帰っていきます。文部科学省の控室にはウォーターサーバーがあって、緊張をごまかすために水を飲みまくっていました。そしたら圧倒的な尿意に襲われ、まさにその瞬間に面接に呼ばれ大変困りました。財務省の控室にはお菓子やジュースがあって飲食自由だったのでひたすら貪っていました。ただしその姿も当然職員にチェックされています。
面接のシステム
  • いつ呼ばれるかや1日に呼ばれる回数などは人によってまちまちで全く分かりません。さっき呼ばれたからしばらく呼ばれないだろうと思っていたら急に呼ばれたり、逆に2、3時間くらい呼ばれないこともあります。常に緊張を強いられるのできついです。それが場合によっては23時頃まで続きます。
  • 面接には原課面接と人事面接の二種類があります。原課面接とは、人事ではなく実際に各課で仕事をしている職員と、主にその職員が担当している政策分野について意見を交わすというものです。人事面接は、その名の通り人事担当者と主に受験者自らのことについて話すというものです。特に原課面接は、高く評価している受験者ほど役職が高い職員が対応します。従って、中盤になっても係長クラスにしか会えなかったり、面接者の役職が前の面接より下がったりすると、死にそうな気持ちになります。
色々な人々
  • 控室にいる間は必然的に他の受験者と顔を突き合わせることになります。大体の受験者は面接で聞かれた内容をシェアしあうなど協力し合いますが、中には、ライバルを利することをしたくないからか、絶対に面接内容を話さず孤高を貫く人もいます。ライアーゲームみたいで面白かったです。
不採用の瞬間
  • 普通に面接に呼ばれる場合は「〇〇さん、こちらへお越し下さい」と言われるだけですが、不採用を告げられる場合だけ「〇〇さん、『荷物を持って』こちらへお越し下さい」と言われます。そして呼び出された先で「残念ながら〇〇さんの採用の可能性は低くなりました。今後は他の省庁も回られてはいかがでしょうか。*1と極めて遠回しに不採用を告げられます。だから「荷物を持って」は受験者にとって恐怖のワードです。熱く政策を語り合っていた相手が「荷物を持って」と言われた時の泣きそうな表情。そして自分が「荷物を持って」と言われた時の、周囲の受験者に浮かんだ表情。それは気まずさ、同情、自分は逃れたという安堵感、そしてライバルが減ることへのかすかな喜び、そういった複雑な感情が入り混じったなんとも言い表せないものでした。今でも脳裏に焼き付いて離れません。
出口面接
  • こうした肩たたきを逃れて一日の終わりまで生き残った者は、出口面接を受けることになります。ここで、その時点での受験者に対する評価が伝えられます。私は「採用プロセスは順調です。」と言われました。これではどういうことかさっぱりわかりませんので、括弧書きで補足すると、「採用プロセス(お前を落とすための手続き)は順調(お前の評価は順調ではないけどな)です(お前の評価に言及しない時点でどういう評価かは察しろ。まあもう限りなく駄目だけど一応残しておいてやったわ。あまり期待しないでね)。」という意味です。岡田彰布元監督並に情報量を圧縮した発言です。この含意は事前に情報を仕入れていなかったら全く分からなかったと思います。私はアスペルガーなので、「お前はもうほとんど駄目だけど一応次回も来いや」とはっきり言ってくれた方がありがたいです。ちなみに、だいたい評価が高いほど次の回に朝早く集合させられます。
職員と会食
  • 財務省では職員さんが受験生何人かを昼食、夕食に連れて行ってくれました。こういうことは時々あるようですが、これも採用過程の一部と考えると何も喉を通りません。あと、これに呼ばれたから有望とかいうことは全くなく、私はその後普通に落とされました。
採否を分けるもの
  • 内定者も無内定者も口を揃えて言うのが「官庁訪問は運ゲー」という言葉です。それくらい採用基準が不透明で、「人物本位」の名の下に全てが謎に包まれています。合格体験記を見れば見るほど分からなくなってきます。志望動機も適当で良い。知識もなくていい。論理性とかもあんま関係ない。席次も関係ない。じゃあ何なのか。あらゆる体験や伝聞を踏まえたうえで身も蓋も無い良い方をすると、「定型発達力」だと思います。発言や挙動が何となくキモくないこと。正常な感じを抱かせること。違和感、不快感、「まともじゃない」という感じを抱かせないこと。これが民間にも増して重視されていると感じました。

後から思ったこと

千里眼の持ち主

 当時の官僚志望者仲間に、物凄く優秀で、誰が見ても採用されるであろう女性がいました。彼女は文部科学省と某X省で迷っていたのですが、文部科学省が官庁訪問前に優秀な彼女を囲い込もうとして事前面接を行ってきたのです。当然、こうした事前の選考活動を疑われる行為はルール違反ですが、それだけ高く評価されているわけですから、私だったら絶対に文部科学省に心が傾くと思います。ところが、彼女は逆に「教育を司る官庁が陰でそういうことをやることに失望した。」と言って、囲い込みをしてこなかったX省を第一志望に切り替え、見事内定を勝ち取りました。

 それからだいぶ経ってから、文部科学省に天下り問題が発覚して、私は彼女の慧眼に改めて感心しました。採用のルール違反から彼女が「文部科学省の人事は一事が万事この調子なのではないか」と考えたのならば、それは見事に当たったわけです。更に一歩踏み込んで「人事がそのような調子ならば自分も入庁後公正に評価されるか分からない」と考えたのかもしれません。いずれにせよ、とかく受かることがゴールになりがちな官庁訪問でそこまでの長期的視野に立って考えられるというのは、やはり優秀だなと思いました。

原課面接を行う職員のやる気

 自分が働き始めてから分かったのですが、人事課以外の職員にとっては誰が新規採用されようがそこまで関心がありません。次年度に自分の部署に新規採用者が配属される可能性は高くはないし、仮に配属されたとしてもそれは数ある人事異動の中の一つにすぎません。異動してきた新しい人が何人もいる中に新規採用者もいるというぐらいで、何ら特別視することではありません。

 そう考えると、原課面接を任された職員はどのようなモチベーションだったのか気になります。今まさに面接している受験者が、採用まで到達し、なおかつ次年度に自分の部署に配属され、なおかつ自分の仕事に関与してくる確率など、針の穴より小さいでしょう。そもそも原課職員はクソ忙しく、こんな面接は早く終わらせて通常業務に戻りたいはずです。つまり真面目に受験者を評価するインセンティブは何も無いのではないでしょうか。私だったら鉛筆を転がして適当に評価を決めるかもしれません。そしてそれに近いことをやっていた職員は相当数いたのではないでしょうか。仮にそうだとすれば、それが受験者の人生を左右することに面白味というか、運命のいたずらを感じずにはいられません。

*1:省庁によって細かいバリエーションはあるだろうがだいたいこんな感じ